第21話 Queens, NY, United States.
アメリカの支店長は、月に一度、報告のため日本本店総板長に国際電話をかける。
「もしもし、総板長ですか?」
「どないしはったん? 月に一度の報告には未だ早いん違いますのん?」
東京本店の総板長は京都出身である。
元の京都本店は弟子に任せて、今は東京に本店を置いている。
涼太は、この総板長の直弟子にあたる。
「涼太のことなんですけど」
「あらー、涼ちゃんの事ですのかぁ、励んではりますのんか?」
生まれも育ちも京都であるが、何処か生粋の京言葉とは違和感がある。
「はい、見習いを終えて今は一人前の板前になってます」
「そないなこと2回も言わんでもよろしい」
違和感のある京言葉、それは何処となく男好きのするような口調である。
「済みません。実はアメリカ2号店の話ですが」
「はいはい、進んでますのんか?」
総板長の電話を握る手に力が入る。
受話器は音を立てて握り潰されそうだ。
実は、この総板長、趣味がボディビルディングで、かなりのマッチョだ。
「はい、クィーンズに良い物件を見つけました」
「あらまぁ。クィーンズにしはるのんか、ばっちりこん、やないですの」
堀の深い顔に笑顔が浮かぶ。
この顔でマッチョ、しかも此の喋り方、夜の街でも歩こうものなら、間違いなく猫系男子が付いて来そうである。
「はい、その理由なんですけど」
「ラガーディア空港、ケネディー国際空港、和食を世界へ、なんて思てはるんちゃいますのん?もう、嫌やわー、話、大き過ぎますやんかぁ」
「いえ、それが、場所は、イサム・ノグチ美術館のある近所です」
「それって、どの辺になりますのん?」
「えーと、そのー、ロングアイランド・シティ、です」
「んー、ちょっと待ってなぁ」
総板長は、何年も前にアメリカ進出を考えた時に覚えたニューヨークの地図を思い出している。
そして、
「おんどれー! 何考えとんじゃ、それってケネディー空港の真逆の立地やないかい!」
この変な京言葉のマッチョ、怒ると怖い。
「何処が、和食を世界へ! になっとんねん!」
「はい、済みません、確かにそうですが、ブルックリンから地下鉄で直ぐに行けますし、応援にも駆けつけられます。それに、こちらの顧客を紹介もしやすいかと」
「なんやぁ、そないな理由なんやったら早よう言うてくれはらな。ウチ、分からへんやないのぉ」
喜怒哀楽の激しい分かりやすい男でもある。
「はい、済みません。で、そこの支店長に涼太を」
「今、何んて言うたの?」
「はい! ゆくゆくはジャックをブルックリン支店長に、菅野は副板長に。二人には私から言ってあります。二人には安定した道を作ってあります。然し、クィーンズは博打性を否めません」
「そこで、涼太、なの?」
「はい、彼は誰よりも若い、そして」
「そして?」
「総板長に言われた通り、彼には何も教えて来ませんでした。彼は自力でブルックリンの人々を掴みました。今度は、クィーンズを、彼には、その可能性があります」
「・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・。」
「よう言うた支店長! あんたの判断、正しいかどうかなんて分かりまへん。せやけど、あんたはこの店を正しい方向に導こうとしてはる。それでよろしい」
「それでは?」
「もう何も言うことはおまへん、ニューヨークの2店舗、任しましたで」
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