第8話 薬草摘み
「ポッポ!ポッポ!」
「ん…」
起きる時間を知らせる時計が鳴り、時計を手探りすると、何か温かいものに触れた。
薄目を開けると、布団から飛び出た烈火の太ももに手が触れていた。
ああ、昨日なんかエロい展開になったな。
上半身だけ起き上がり頬杖をつきながら、5本の指で烈火の太ももをなぞって遊ぶ。
「ぁ、いやっ。」
烈火の身体がビクッとはね、目を覚ました烈火と目が合う。
「あんた寝相悪すぎ。」
烈火は何か言おうとして、何も言えずにぷいっとそっぽを向く。その耳が真っ赤だ。
昨日のことで、もう自分のことをガキ扱いすることはないだろう。
だいたい、そんなに年も変わらないのに、子ども扱いしてくるこいつが悪い。
だから、からかってやった。
昨日のことはそれだけのことだ…多分。
「おい、起きろよ。あんたも今日仕事だろ。俺も今日は薬屋の仕事だから、送る。」
黙って身支度する烈火。これは当分口をきいてくれないかもしれない。
「ふぁ〜。あ、りおう、お姉さん、もう出かけるの?俺、朝食作るから食べてってよ。」
「ありがとう、久音。迷惑じゃなければご一緒していいかしら?」
「うん!」
久音はバカじゃない。お互いに一言も喋らない俺と烈火に気を使ってるのがわかり、流石に申し訳なさを感じつつ、朝食をとった。
——
「烈火ちゃんお帰り。」
薬屋に着くと百夜が出迎えた。
「ただいま帰りました。昨日は帰らなくてごめんなさい。遅かったからりおうの家に泊まりました。」
「ふーん。そっかぁ。あ、烈火ちゃん、今日もりおうの薬草摘み手伝ってあげて。たまには外に出たいでしょ?」
「えっと…。」
狼狽える烈火の様子を見て百夜が笑顔で俺の方を見る。
「ねぇ、りおう。まさかとは思うけど、烈火ちゃんに何かした?」
笑顔に圧を感じて後退りする。
「別に何もしてねえよ。…仕事早く終わらせたいんだけど。あんた、来るなら早くして。」
準備する烈火を横目で見ながら、百夜の殺気に冷や汗をかいていた。
——
薬屋から地上へつながる箱へ移動した。
箱の乗り口を開けつつ、ため息をつく。
「なあ、あんたさ。いい加減何か口聞けよ。」
「…」
それでも烈火は思い詰めたように黙っていた。
烈火が箱にのり、扉を閉める。鍵をかけたことを確認して、箱を動かす。
「ねえ、りおう。」
やっと話してくれたことに安心したが、どこか様子がおかしい。
「キスして。」
「はぁ?!」
まさか烈火からねだられるとは思っていなかったので激しく動揺する。
「自分の気持ちを確かめたいの。」
なんだそれ。
昨日自分からしたときより胸がうるさい。
顎を持ち上げる。
「ん…」
舌を烈火の口の中に入れる。昨日より激しいキスに烈火の声が漏れる。
「りおう…」
烈火の潤んだ目に見つめられ、着物に手をかけようとすると、烈火に手を押さえられた。どうやらキスの先は許す気がないらしい。
クソっ。止められなくなる。
ガタン。
箱が地上に着き、揺れる。
息切れしながら唇を離すと、お互いの唾液が糸をひき、烈火の唇を濡らした。
「…行くぞ。」
「…」
気持ちは確かめられたのだろうか。なんとなく烈火の顔を見れずに箱から降りた。
「おう、りおう。あと…、翡翠の彼女?」
地下へ行くのだろうか。黒桜とばったり出くわした。
まさかの発言に目が点になる。
「は?おまえ、あの貴族とできてんの?」
「ちがっ」
「はー。マジか。」
唸るように言って扉を蹴飛ばす。
「あ、おい、こんなんでも精密機器なんだから、雑に扱うなよ。」
黒桜が顔をしかめる。
「うぜー、クソ偽善貴族。」
自分でも意外なくらい苛立ってしまい、それだけ吐き出して、烈火を置いて駆け出した。
——
後に残された私と黒桜。
「あっははは…俺何かまずいこと言った?」
「黒桜さん?私と翡翠はただのごはん友だちよ。」
「黒桜でいい。すまん!早とちりした!」
手を合わせて頭を下げられる。短髪の頭が申し訳なさそうに項垂れる。
「…もういいわ。」
りおうを傷つけてしまったことにショックはある。しかし自分の気持ちがどこにあるか分からない以上、りおうを追いかけるのも躊躇われた。
「お嬢さん、お詫びに地上でうまい飯をご馳走したいんだが。用事あったか?」
お昼休憩してもいい時間かもしれないが、食欲があるわけではない。翡翠とのことは完全に誤解だが、天空島にキスした人がいるのにりおうとあんなことをしたのも事実で、りおうに合わせる顔もない。
「百夜に頼まれて、薬草を摘むところだったの。でも…」
相当途方に暮れた顔でもしてたのだろうか。
「この件は俺が悪かったから、百夜には俺から言っておく。だからパーッと食って忘れよう!うん、我ながらナイスアイデアだな。」
悪びれなく言う黒桜を観察する。
医者と聞いていたが、今日は白衣を身につけていない。年は百夜と同じくらいだろうか。
仕事を投げ出すのは気が引けたが、りおうのこと、天空島のあの人のこと、考えても行き詰まる気がして、誘いに乗ることにした。
「少しだけなら。」
私の手を取ろうとする黒桜の手をやんわりお断りして、黒桜のあとについて行った。
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