uranos nisi
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第1話 ある者は天使と呼ぶ
今日も天を仰ぐと天空島が見える。そこは地上より色素が薄い森が生い茂り、曇りガラスでできたような塔が立っている。その全てが逆さまな街。
街の詳細は肉眼で見るにはあまりに遠いのでわからない。せいぜい地上からはきらきらした建物らしき物の反射が見えるくらいだ。双眼鏡で覗けば美しい街の様子が分かるようだが、そんな貴重なものが簡単に手に入るわけもなく。
「はぁー。今日もつまんねーな。」
波を蹴って文句を言う。最近の日課は浜辺で何か面白い物が落ちていないか探すことだ。
普段は地下街で暮らす俺、りおうが地上にいるのを見られたら少々面倒が起きそうなので人のいない時間を狙ってこっそり来る。
俺は赤子の頃、この海岸に捨てられていたらしい。そんなつもりはないが、ここにいれば両親にいつか会えることを心のどこかで期待しているのかもしれない。
波を見ながら歩いていると、砂に人の影が音もなくうつり込んだ。突然。
驚いて顔を上げると、真っ白な女の人が呆然と立っていた。長い髪も、まつ毛も、肌も、全ての色素が薄い。
だが、それら全てが真紅に染められていた。咽せ返るような鉄の匂い。おそらく、これは血だ。
それでも、これが物語に聞く天使だと思った。その人の背中には透き通るような羽が2枚、生えていたから。
「ねえ、お姉さん?」
声をかけてみても、人形のように身動きしない。
ため息をついて、俺は天使の手を引いた。事件性の塊のような女に、面倒事に巻き込まれそうな予感はした。が、それ以上に女の人が何者なのか興味が湧いた。
「いざとなったら、クソ貴族に売り飛ばせばいいし。」
ボソッと言い訳して、眩しい海に背を向けた。
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