餌付け

 後輩の父親は(本気でそう思っているわけではないだろうが)駄犬と称したが、どちらかというと猫ではないかというのが淡島の正直な感想だ。学生時代、アルバイト先で廃棄となった魚のアラを時おり寄り付く猫にやっていた事を思い出す。

 そう考えると何だか、ありあわせで作ったドリアや茶漬け、サンドイッチを黙々と(派手な見かけに反して、やはり良家出身という事か食事の所作は綺麗だ)食べている様も微笑ましい気すらしてくる。

 久しぶりに日が暮れる前に帰庁して、麺にするか米にするか、それが問題だとうんうん悩んでいると、開錠音がした。今日は来たのか。合鍵は渡している。


「いらっしゃーい。今日は何食べたい?」


 父親譲りの猛禽類の如き双眸が数秒、淡島を注視する。


「……アンタでも怪我するのね」


 彼も自分を何だと思っているのやら。カットバンが貼られた頬に向かって、興味深げにごつい指輪がはめられた指が伸びてきたが、すぐに引っ込められた。どこか気遣わし気な態度に淡島のテンションは上がる。


「きしゅー君はほんまにかえらし子やなぁ」


 今度は淡島が腕を伸ばして、見事な紅葉色の頭髪を撫でた。


「……頭の病院にでも行ったらどうなの」


 大きな溜め息を吐かれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る