最期くらい貴方と過ごしたかった

くじらじく

1話

世界があと70時間で終わるとアナウンサーが告げてから、

62時間経った。

あと8時間。8時間経てば、何もかも失くなってしまう。

暑苦しい布団の上、改めて実感していた。

蝉は未だに子孫を残そうと、煩く鳴いている。

そんなのもう意味無いのに。

警察なんて仕事してないから、外はもう大変。

たまに銃声が聞こえるし。


もう、この世界の全てに意味が無くなった。

何を食おうが、何を観ようが、全て綺麗サッパリ失くなってしまうのだ。

新しい惑星がどーとか、ロケットがどーとか騒いでた人類が、たった一つのでかい隕石で全滅する。情けないね。

まぁ、それはそれでなかなか皮肉っぽくて面白いけど。

とにかく、この世の全ての物が、人類が頑張って積み上げてきた歴史が、あと8時間でパーになる。


エアコンは止まってしまったし、食料もほとんど無くなってしまったから、俺は何もせず、布団の上でごろごろして残り時間を過ごしていた。

一人暮らしじゃ、話し相手もいないし。

このまま最期の時を待つしかない。

本でも読もうかと思ったが、8時間で読み切れなかったら嫌だし、読んだところで何もないし、やめた。


「早く彼女でも作りなよ」


昔先輩に言われた言葉を思い出した。

あーあ、作っておけば良かった。

でも、あの頃は貴方と居るだけで楽しかったんですよ、先輩。

恋愛なんて必要ない、って思っちゃったんですよ。

まさか、そんなに突然、居なくなるとは思わないじゃないですか。


3年前の夏、先輩は姿を消してしまった。

雨が降っているのに傘がない俺に、

「仕方ないな、迎えに行ってやる」

って言って、そのまま。

事故に遭ったと聞かされた。

昨日まで、冗談言って、笑ってたあの人が、

あっさりと、何処かへ消えてしまった。

謝ることも出来なかった。


なんやかんやそれを引き摺り続けて、3年。

何にも出来ずに、終わりを迎えることになった。


あー、それにしても暇だ。

貴方が居れば、多少は楽しかったかもしれないのに。

でも先輩不用心だから、暴れてる一般人に撃たれちゃうかもな。

どっちにしろ俺が置いてかれるんじゃん。


最期くらい、貴方と笑い合って終わらせたかったな。

あぁ、なんか眠くなってきた。

起きた頃には世界も終わってるかな。

夢に出てきてくれたりしないかな。


せめて、迎えには来てくださいね。

どんだけ待ったと思ってるんですか。

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最期くらい貴方と過ごしたかった くじらじく @kuziraziku256

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