　例えば、

　全盲の人間に、空の青さを伝えることができるだろうか。

　聴覚を持たない人間に、ジャズのカッコよさを伝えることができるだろうか。

　味覚を持たない人間に、緑茶の奥深い美味しさを伝えることができるだろうか。

　全ての人間が傷つかないような言葉を扱うことができるだろうか。

　全ての人間が不幸にならないような行動をすることができるだろうか。

　例えば、

　生理を経験しない私には、生理痛を抱える女性の苦しみを理解できるだろうか。

　大学受験を経験しない私には、終わりなき勉強の末志望校に受かれなかった人間の絶望感を理解できるだろうか。

　親を持つ私には、親を失った子供の寂しさを理解できるだろうか。

　ひどい怪我を経験していない私には、銃に打たれた人間の痛みを理解できるだろうか。

　私はこんなこともできないのだ。

　自分の幸福を他人に分け与えることもできないのだ。人に不幸を与え続けて私は生きているのに、それを好転させることもできないのだ。

　人の痛みを、苦しみを、不幸を、理解して、その上で助けてあげることができないのだ。

　私は無力だ。

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。（ログインが必要です）

新規登録で充実の読書を

マイページ: 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる; 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める; フォローしたユーザーの活動を追える
通知: 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴: 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい