第4話 奈落の底に落ちる
「なんなのよ、これ・・・っ」
私が声に出すと、再び睨むようにアドルド王子が私を見る。
私は初めて人の顔に書いてあるという表現がわかったかもしれない。
『ハヤク、ヤリタイ。ヨケイナモノハ、ハイジョスル』
「もう、お前は用済みだ」
バサッ
「えっ」
一瞬にして近づいてきて、私がびっくりしているうちにベランダの手すりの上から私をひょいっと投げ捨てたアドルド王子。あまりに唐突で、あまりに予想外だったので私は抵抗することができずに落下していく。
(嘘でしょっ)
私はベランダに掴もうとするけれど、落ちている私にはもう今さらで、遅かった。
どや顔でニヤニヤするアドルド王子、そして、優越感に浸るアテネシア王女が私を見下していた。
(こんなの嫌っ)
死を覚悟すると人の思考は本当に超加速するらしい。
そんな不愉快な二人の笑顔が最後に見たものでは死んでも死にきれないと思った私は、まだ見ていない最後の大魔法の成果を必死に見ようと体制を変える。
「・・・きれいっ」
あの悪人の二人でも悪の心を忘れて、純粋な顔で見惚れていたことだけはある景色。
四季折々の花々が全て満開に咲き誇り、無限に広がる地平線は麦畑や野菜畑、原っぱで満たされていた。
私の最後の大魔法は最高の景色を生成した。
(こんな景色、天国にだって負けないわよ・・・)
私を騙した二人のためと言うのは癪だけれど、私はこの景色を目に焼き付けて死ねる唯一の人間だと思えば、自然と私の中にあった悔しい気持ちなどの暗い気持は消えていった。
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