バレンタイン

 私きっと幻を見たの。

可愛らしくて、少し寂しそうな少女がいたから、チョコレートを買ってあげたの。


どこで買ったか、ううん、買ったのかもよく分からない。手に持っていた贈る相手の居ないチョコレート。


丁寧に包装されていて少し値段もしただろうそれを、私は彼女に贈ろうとした。


けれど彼女は言った。


ごめんなさい、それを受け取ることは出来ない。


私は時間の外にいるから。


だけど大丈夫。貴女ならきっと、時間の内を歩くもう一人の私に出会うことがあるでしょう。


だから今じゃないその時、それは彼に渡してあげて欲しい。


そう言われて私は人の行き交う街の中をぼーっと歩いて、少しだけ見慣れない場所に来ていた。

辺りを見ると気の良さそうな青年がいたので道を聞いてみることにした。

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