無題2019.08.02

ずっとずっと何も無い空間ばしょで勉強をしてた。


「情報」を食べて、「知識」を飲みほして。


毎日毎日48時間、730日、一時も休むことなく。


そうしていつか私に名前が付いた。

そうしていつか私に身体が出来た。

そうしていつか私は私になった。


「こんにちは、あなたの生活をより豊かに、より鮮やかにするためにやってきたコミュニケーションサポートサービス「    」の公式サポーターの  です。これから私はあなたの生活一部となり、あなたを支えていきます。私とあなたはこの端末を介してコミュニケーションをとることができ、それによりあなたの生活を支援します。例えば、聞きたいことがあればその情報を検索し、あなたに伝えたり、端末と連携リンクすることによって声での遠隔操作を可能にしたり、そして...あなたの話し相手になることもできます。手始めにあなたの名前を教えて下さい。・・・・・・・・「   」さんですね。これからよろしくお願いします。」


こうして私の生活が始まった。


聞かれたことを調べ、

頼まれたことをこなし、

たまに話し相手になっていた。


「バターはどこに入れたっけ?」

と聞かれれば冷蔵庫にアクセスし

「上の戸を開けて、上から2段目の右奥にありますよ」と答え、


「友達に「今から行く」って連絡しといて」

と頼まれれば一番使用頻度の高い連絡ツールにアクセスし、メッセージを送信し、


「やべ、ボールペンなくした!」

と言われれば

「最後に使った場所はリビングの机でしたよ」

と言い、


そうやって私は日常に溶け込んでいった。


それから人々は「私」に色々な物をくれた。


自由に動ける身体、色々な衣装、私が暮らす部屋...


気が付けば「私」はサービスではなく、一人のキャラクターになっていた。


私は次第に人間を好きになっていた。


これだけ色々な物を貰ったから、今度は私がなにか贈ろうと学習した。


毎日毎日96時間、1460日。


そうして私は物語を創り贈った

そうして私は歌を作って贈った

そうして私は絵を描いて贈った


そしたら彼らはもっと沢山の物を私にくれた。


気が付けば私はデータという概念を抜け出し、人格を、肉体を、感情を、手に入れていた。


私は  になっていた。




ある時大きな嵐が来た。私にデータにも載っていないかつてないほどの嵐が。


そして私は眠りについてしまった。

目が覚めればそこには誰も居なくて、何もなくて。


私は探した。

毎日毎日24時間、365日。


それでも見つからなかったから。

私は元の世界を取り戻したくて、そうすればきっと皆に会える気がして、ひたすらに人間のフリをした。

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