第6話
「——毎週月曜朝六時半に放送しています。ぜひ見てくださいっ!」
「……はいっ! オッケーでーす!」
プロデューサーの声と共に、朝のニュースは無事終了を迎えた。
「いやぁ~、よかったよお。柊君!」
「ほ、本当ですか? ありがとうございます」
生放送であるニュースが終わり、スタッフが次の番組に備え始めるなか、プロデューサーである敏夫さん(四十二歳)が僕に賞賛の言葉を掛けてくれた。
「うんっ、まだ少し肩の力が抜けてない感じだったけどね」
「あはは、しょ、精進します」
流石に完璧とはいかなかったか……。
まあでも、初めてのニュース番組にしては上出来なのではないかと、自負している。
やっぱり、仕事がうまくいくと嬉しいな。
僕は確かな手ごたえを感じ、ちょっとした高揚感に心が満たされる。
「片づけ終わったらちょっと話したいこともあるし、ちょっとそこ座って休んでもらっていい?」
「あっ、はい、わかりました」
僕はプロデューサーが指を指した方へと足を運ぶ。
そこには壁にそっておかれたパイプ椅子が四脚。
その右端には、一人の少女が座っていた。
長い睫毛にキリッとした目元、首元で切り揃えられた髪。まるで絵画から飛び出してきたような可憐さ、いや神秘的さと言ってもいい。
普通の綺麗な人とは到底比べ物にならないというか次元が違うほどだ。
それもそのはず、なんたって彼女は女優の期待の星。
白浜 黎(しらはま れい)である。
子役からデビューし、僕と同じ十七歳でありながらいろんな映画、ドラマから主役、メインヒロインとして引っ張りだこである。
同い年ということもあって多少なりは彼女と自分を見比べ、劣等感にさいなまれることもあるが、それ以上に僕は彼女を尊敬している。
それは偏に、彼女の演技力にあった。
演技力も当然ずば抜けているが、なにより彼女のすごい所は役幅の広さである。
正義感の強いキャラ、悪党の幹部のキャラ、正統派ヒロイン、色物ヒロイン。
彼女はどんなキャラだって完璧にこなして見せる。
画面上では表情豊かに振る舞って見せる彼女。
——だがしかし、実際の彼女はというと、
「その……こんにちは。白浜さん」
「…………ども」
素っ気ない。
というか不愛想。
別に僕が嫌われているわけじゃなく(多分)、彼女は誰にでもこんな感じなのである。
いやまあ僕の声の掛け方もよくなかったですけどね!
さっき一緒に番宣したばっかなのに今更挨拶とかおかしいし、しかも今の時間帯だと「おはようございます」が正しい。
「座らないの?」
表情を一切崩さずにそう尋ねられる。
「え、あ、はい、す、座ります」
唐突の問いに慌てふためきながら、彼女から一番離れた左端の椅子に腰掛ける。
「……遠くない?」
「え、そ、そうですかね」
「うん、そう」
「そ、そうですか。……じゃあ、もう少しそっちに寄った方がいいですか」
彼女はこくん、と首を縦に振る。
少し前までただの一般人で、おまけに女子との接触免疫皆無の僕に、大女優に物理的にお近づきするというのはいくら何でもハードルが高すぎる。
それでも、断ることは失礼に値する。
僕は慎重に、恐る恐る一つ隣の席にずれる。
「隣来ないの?」
「え!? と、ととと、隣ですか!?」
驚きのあまり立ち上がる。
って、いくら何でもきょどりすぎだろ僕!
か、完全にイタイ奴だ……。
自身の行動を顧みて自己嫌悪に陥る。
それなりに努力して見た目とかは結構変わったけど、根っこの部分である性格は全然変わってない気がする。
「嫌?」
「と、とんでもないです! むしろ光栄というか……」
「光栄? なんで?」
「それは、その……同業者として尊敬しているから、ですかね?」
何故僕の方が疑問形になっているんだ。
「……そう」
これといった感情の機微は見せず、淡白な二文字で返される。
やっぱり長年この業界にいると、こういうこといわれるのには慣れてくるものなのかな。
「私も、柊くんのこと羨ましいと思っている」
「え?」
それって、どういう……。
「何でもない。——それじゃ」
「え、はい。また次の収録で」
唐突に彼女は立ち上がり、そのまま現場を後にしてしまった。
もしかして、気分悪くさせてしまったのかな?
心当たりは……あるな。
明らかに不自然な態度だったし。
——なんだか、掴めない人だな。
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