払ってあげたいのに払えないって、なにこのジレンマ?

実を言うと私達の稼ぎがすごかった理由の一つに、私達が実質的な従業員として使っているのが<奴隷>だからというのがあった。


奴隷には決してお金は渡さない。それがこの世界での暗黙のルールだった。どれほど働いてくれてもそれはコストとして反映されない。


正直、リレ達に<給料>を払ってあげたかった。だけど私がそれをすると、反発した誰かに彼女達が危害を加えられる危険性さえある。比較的治安はいいクレガマトレンであっても、そういう事件がまったくない訳じゃない。奴隷がお金を持ってるとかなったら、それを強奪しようっていう人間も出てくるかもしない。


はあ……払ってあげたいのに払えないって、なにこのジレンマ?


仕方ないから、彼女達の生命と身体はとにかく守るという形で、食事や服や靴をちゃんとしたものを与えて休みも与えて給料の代わりにさせてもらうことにしてた。だけど彼女達はそれでさえ、


「本当に私達の為なんかにそこまでしていただいていいんですか…?」


って不安そうだった。


どんだけ!? ねえどんだけ怯えてんの!?


奴隷っていう制度の闇の深さをつくづく思い知らされる気さえしたわよ。


だから食事はわざわざ欠けたり虫に食われてしまった野菜を使ってもらったり、服も靴も、使うには問題ないけどそれなりに使い込まれた中古品を与えてた。『大切にする』っていう、普通なら当たり前で尊い筈のことすらこれだけ気を遣うって意味分からない!


って、いかん、興奮してしまった。落ち着け私。


でもまあ、人を人と見做さないなんてことができる時点でおかしいのか。しかもそれが常識として成立してる社会。向こうでも、ずっと未来になれば<社畜>なんて言葉がさも<そうあるべき規範>みたいに思われてたことを信じられなくなるのかもしれないね。


今は『それがなければ社会が成り立たない!』とか信じ込んで、それに異を唱える人間に対しては<お花畑>とか罵ってても、いつかはそうじゃなくなるかも。


『奴隷がいなくちゃ社会が成り立たない!』と思われてたのに奴隷制度がなくなったように。


って、あれ? 前にもこんなこと考えてなかったっけ? まあいいや。とにかく何とかして折り合いをつけなきゃいけないのは変わりないんだから。


おそらくこの仕事がもっと広まっていくに従って、奴隷じゃない普通の人を下働きとして雇うようになっていくこともあるかもしれない。そうなると普通に賃金を支払うことになっていくと思う。そうなってくるとさすがに私の取り分も目減りするだろうから、今から『こんなに儲けられて当たり前』っていう意識を抑えていかなきゃいけないのかなあ。


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