お前のやりたいようにやれ! 尻は私が拭いてやる!

『私も、自分がそうしたいからやってるだけだよ、カリン』


私を真っ直ぐに見詰めてそう言ってくれるアウラクレアにぐっと来てると、メロエリータも言ってきた。


「私もお前の研究がこの国の為になると思えばこそやっているのだ。これは私の勘だ。私は自らの直感に従って行動している。お前はお前のやりたいことをすればいい。それで私が不利益を被ろうとも、それは私自身の読みが甘かったというだけのことだ。お前に責任を取らせようとは思わん。


私は己の判断に責任も持てないような情けない者にはなりたくない。


カリン、やれ! お前のやりたいようにやれ! 尻は私が拭いてやる!」


『尻』って……貴族のお嬢さんがそれでいいの? とか思っちゃったけど、いまさらか。


「ありがとう、クレア、エータ……」


普通の会社経営って、もっとこう、ドライな感じなんだろうなって思う。だけどここではまだ、<会社>ってものがまだ一般的じゃなくて、人間的な結び付きが強いのかもしれない。でも私にとってはそれがすごくありがたかった。


私自身が性根の部分がすごくドライで冷酷で冷淡な人間だから、そういうのをアウラクレアとメロエリータが補ってくれてるとも感じるんだ。奴隷のことを案じてるのも、本質が薄情な自分を自覚してることの裏返しだと思う。そういう自分が嫌なんだ。


私は、向こうにいた時も、結局はたくさんの人達に助けられて生きてきた。私一人の力なんかじゃない。だからここでもたくさんの人達に助けられて生きていく。その恩に、私にできることで報いていきたい。


会社の方を頑張りつつも魔法使いとしての仕事も疎かにしないようにしてるのは、そういう意味もある。


その<魔法使いとしての仕事>の一つに、最近、<終末医療>も加わった。人生の終焉を迎えようとしてる人が安らかに最期を迎えられるよう、痛みや苦しみを和らげてあげるんだ。


人間の体内にいる微生物に働きかけることで苦痛を和らげ、穏やかな表情で眠れるようにできるようになった。


微生物の働きについて研究してた時に気付いた効果だ。微生物が神経を麻痺させたり、刺激が神経に伝わる前にブロックしたりするという形で苦痛を和らげることができた。


ただこれは、使い方を誤まると、本人が命の危険に晒されてることにも気付かないうちに死に至る可能性さえある諸刃の剣だということにも私は気付いてた。


だから正直、安易に他人には教えない方がいいとも思った。


こういう風に、魔法にも良い面や恐ろしい面があるのを毎日のように実感する。


メロエリータはそのことを知ってる筈だった。それなのに私に対して『やりたいようにやれ』と言ってのける胆力に、改めて感服するのだった。


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