今の日本とかとは、人生の密度が違う感じかな

この辺りでも畑を耕すには牛にすき(プラウ)を牽かせる耕法が一般的だった。だけど今回は、鈍り切った兵士達の体力を鍛え直す意味もあって敢えて牛を使わず、一人が犂を支えて四人がそれを引っ張るという形を二チームつくり、作業を行ってた。これはバンクハンマが指示したもので、まあはっきり言うと<しごき>に近いものだったかな。


一応、牛を入れて作業するには形が悪くてかえってやりにくい畑だったからっていう建前はあるみたいだけど。


もちろん、兵士達は牛のように扱われるということで、隊長さん以外は不満そうだった。でもメロエリータが見てるということで仕方なく従ってた感じか。


だけど、休憩時間にはアウラクレアが、


「はい、お茶とお食事をお持ちしました。それとこちらタオルと着替えです。汗をかいたままでは風邪をひいてしまいますからね」


と、至れり尽くせりで労ってくれるものだから、みんなデレデレになっちゃって。アウラクレアも、彼らの為に張り切って洗濯とか食事の用意をしてた。彼らの服の洗濯だけでも一日三回。アウラクレアのこういうところが男性にとっては堪らないんだろうな。


特に、バンクレンチの様子は、クールぶってるクセに視線は彼女を追ってて、思いっ切り意識してるのがバレバレだった。


ちなみにバンクハンマは二十三歳。バンクレンチは二十一歳らしい。男女ともに十六歳で成人と見做されるこの世界では、今の日本の三十歳チョイ前くらいの感覚かもしれない。で、男性はだいたい二十歳になる前には結婚するんだって。だけどバンクレンチは縁談とかも断ってまだ結婚してないとのこと。それが何故か、この時の様子を見てて分かっちゃった。


バンクレンチってば、アウラクレアのことが好きなんだ。この時のアウラクレアは十六歳で、まさに成人になったところだった。


で、鍛錬という名の農作業が始まって一週間くらいした時、夕食の後でバンクレンチがアウラクレアに会いに来た。


まあ、野暮かなとは思いつつも、うちの大切な従業員である彼女のことが気になるというのもあって、私は<聞き耳の魔法>で会話を拾わせてもらった。


「なあ、クレア。俺、お前のことが好きだ。結婚してくれ」


ほほう、これはまたストレートな。さすがにスレてないということかな。


だけどそれに対するアウラクレアの返事は、


「ごめんなさい。私、今のこの仕事が面白くなってきてて、まだ家庭に入るとか子供を生むとか、考えられないんです」


というものだった。


う~ん。十六歳と言えどもやはり成人として認められるだけあって、しっかりしてるなあ。


平均寿命が八十を超えてる今の日本とかとは、人生の密度が違う感じかなと思ったのだった。


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