半士半農みたいな概念がないというのは、無駄というか何というか
兵士の質の低下は、実は割と深刻なものだったらしい。畑仕事とかもこれまでの状態で間に合ってたから、半士半農的な人も少なくて、兵士はとにかくただ毎日訓練してるだけなんだって。しかも、この国が攻め込まれることも無くなってたから緊張感もなくて、訓練と称した遊興に耽ってる状態なんだとか。それじゃ困るよね。
で、メロエリータは、そういうだらけきった兵士に農作業をさせることで、せめて体力的な部分だけでも鍛え直そうって目論んだらしい。
と同時に私は、試してみたいことがあった。
「じゃあ、さっそく、この種を蒔いてみたいの。畑仕事に慣れてもらうついでに、この作物がここで育つか試してみたいんだ」
私が取り出した種をアウラクレアとメロエリータが覗き込む。
「これは?」
問い掛ける二人に私は答える。
「雪瓜の種よ。ここよりずっと寒いところで採れるやつ」
前にも言った通り、<食べ物が腐りにくくなる魔法>のおかげで生鮮食品の流通が確立してるこの世界では、遠く離れた国や地域の作物だって食べられたりする。
雪瓜は固く締まった実の食べ応えが好きな人にはたまらないという野菜だった。食感としてはニンジンを生でかじった感じに近いかな。味はカボチャっぽいけど。短冊状に薄く切って干せばそのまま保存食になるから、兵站としての需要も高いそうだ。
「これを育てられたら、雪に埋もれる時期以外なら収穫ができるようになるし、是非試してみたいんだよ」
「おお、それは好都合。来年の本格的な作付までの鍛錬になるな。では早速、父上に進言してみよう」
で三日後、シャフセンバルト卿のところの兵士十人が、さっそく、メロエリータに連れられてやってきた。
「部隊長ガランゼフト・マックガリエル以下十名、訓練を拝命し参上いたしました!」
と、まあ見た目にもクソ真面目そうないかつい隊長さんがかしこまって挨拶してくれたけど、その部下だという九人は、微妙に締まりのない顔でヘラヘラ敬礼するだけだった。私は軍隊とかには詳しくないけど、素人目に見てもこれはダルッダルの
その中の一人、バンクレンチは、実はバンクハンマの弟だった。農家を継ぐのが嫌で軍に志願したらしい。でも結局、こうやって農作業させられる羽目になるんだから、余計にやる気出ないよねぇ。
「っだりぃ、なんで俺がこんなこと……」
バンクハンマの畑の前で整列した時、バンクレンチがぶつぶつと呟いたのが聞こえてしまった。彼らの本音を探る為に、悪いけど<聞き耳の魔法>で聞かせてもらったんだよね。
『こりゃちょっと大変かな……』
正直、土壌の改善の方がよっぽど楽だと思ってしまったのだった。
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