自分の出したものを堆肥化してバケツに入れて運ぶ女の図。よーし、エンジンかかってきたあ!

「お! いい感じになったかも!」


朝から<おまる>を覗き込んでそんな風に歓声上げてる女って、傍から見たらドン引きもののシュールさでしょうね。しかもそれが自分の出したものだっていうんだから。


でも、大事なことなのよ。これがまさに第一歩なんだから。<私達>がこの世界を大きく変える、ね。


人間が生きるっていうのは、<食べて出す>ことでもあるの。食べることを楽しむのなら、食べたものがどうなるかっていうのもちゃんと考えるべきだと私は思う。いいとこ取りだけして嫌なものは見て見ぬふり、どころか完全になかったことにするとか、そんなのは命に対する冒涜だとしか私は思わない。


見たくないものは見ないって言うのなら勝手にしなさい。でも、もし、自分一人で生きることになれば、嫌でもそれを突き付けられるの。見たくないものは見なくても生きられる環境への感謝も忘れた人間がそれに耐えられるかどうか知らないけどね。『嫌なものを見るくらいなら死んだ方がマシ!』とか言うのなら、さっさと死んで。私が肥料に変えて活用してあげるから。


なんて、ここに来た時、『ウンチとおしっこまみれかもぉぉっっ!?』とパニックを起こした私が言うのもなんだけどさ。


ただ、そうやって腹を括るだけの猶予をもらえたのは、本当に幸運だった。ネローシェシカがそれを与えてくれたんだ。私は彼女の為にもこの世界で生きていく。大学の教授や先輩にももちろん感謝してる。自分を見詰めるきっかけを与えてくれたんだからね。


とまあ、そんなことも考えつつ、私はまず、自分が考えた魔法を、アウラクレアやバンクハンマと彼の家族に教えて、堆肥化したウンチをバケツに溜めてもらうことにした。


「は~、こんなのでホントに作物が良く育つようになるのか?」


私とアウラクレアのウンチや生ごみを堆肥化したものをバケツ一杯に入れてバンクハンマの作業小屋を訪れた私に、彼はそんな風に問い掛けた。


「だからそれをこれから試すのよ。私の故郷ではこれを活用することで同じ農地で年に二回、作物を収穫することさえ行ってたわ」


私のその言葉に、バンクハンマは、


「年二回!? バカな! 有り得ねえ!! そんなことしたらすぐに畑が駄目になっちまう!!」


と声を上げた。


ここでの農業は、同じ畑では連続して耕作をしない。収穫したら次の年は休ませてっていうやり方だった。でもそれだと、実質的には農地の半分の収穫しか得られない。それを、堆肥を活用して土壌の力を維持しつつ、最終的にはすべての畑で年一回の収穫を目指す。それだけでも理論上はほぼ倍の収穫を得られるって訳。


まあもっとも、他のいろいろな要素から完全に二倍とはいかないだろうけどさ。それでも今よりは確実に増えるわよ。


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