第30話 孤立
翌日、登校すると教室は明らかに空気が違っていた。
教室の扉を開けた途端、シンと喧騒が凍りつく。自分に向けられる視線。声。雰囲気。どれも刺々しく、そして冷たく敵意が滲んでいる。
普段登校すればかけられる挨拶は一切なく、身軽なままに席に着く。
なんてことはない。自分が望んで手放したのだから。こうなるのは想像していた。順調と言ってもいい。
椅子を引くと、ぽつぽつと人が再び動き始める。時々ちらちらとこちらを伺う視線は感じるものの、声をかけてくる人はいない。
「……ふぅ」
小さく息を吐く。想像はしていたものの、実際に体験するのは違う。自分が嫌われたのだとはっきりと自覚する。
もう少しショックを受けるものだと思っていたが、意外とそこまで響きはしない。むしろ、今まで自分がどれだけ縛られていたのか、その重さを意識する。
リュックの中身を机の中に入れながら、周りの様子を伺う。
どうやら舞達は八代さんに協力する気になったようで、クラスメイト全体で衣装の準備に精を出しているらしい。
多分、八代さんが頼んだのだろう。そう指示しておいたし。
八代さんはクラス全体に何やら指示を出している。担当を割り振る声が聞こえる。凛とした声が教室に響いて、それに周りが従って動いている。
舞が素直に動いている以上、他の人が八代さんに反抗する意味はない。これまでとは大違いだ。皆、素直に指示を聞いている。
(……とりあえずは上手くいったかな)
手に顎を乗せて、肩の力を抜く。今からこの集団の中に入るのは難しい。むしろせっかく上手くいっている今の状態を壊してしまう可能性もある。
なおさら嫌われるよう、周りから見ておくことにした。
八代さんは周りと話しながらも、時々こちらに視線を向ける。何か言いたげなそんな視線。
だがすぐに周りから声をかけられて、視線はそっちに戻る。
何が聞きたいのか、想像に容易い。
今回の騒動が八代さんの耳に入っていないわけがない。むしろ、舞あたりがあれこれ吹き込んでいるのは想像に難くない。
その辺りについて話したいのだろう。俺の様子を伺う八代さんの双眸にそんな質問が浮かんでいるのが、ありありと見て取れる。
だが、何を話せばいいというのか。自分が勝手にしただけのこと。わざわざ八代さんに説明するほどのことでもない。
衣装の準備が円滑に動き出したのだから、それで十分だろう。何より人の手助けを受けられるようになったからといって、ギリギリなのには変わりない。
これから放課後も準備に忙しいのは間違いない。
八代さんからの視線に気付かないふりをして、ただ人が準備を進めるのをぼんやり椅子に座って眺め続けた。
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