提案

 学内のカフェで昼食を取る。「調べ物があるねん」と、教授はついてこなかった。


「ゴミ屋敷に住む人間には、ふたパターンあるんだよ」


 一つは、文字通りゴミ屋敷の住人。こちらは「片付けられない」タイプだ。

 また厄介なことに、「物をなくしてしまうかも」という不安から、ゴミをゴミと認識できない。


「もう一つは、ちらかっていると認識していないタイプだ」


 こちらは「ゴミはゴミ、必要なものはちゃんと整理している」と思いこんでいる。ゴミを溜め込むようなマネはしない。


「これは、学者に多いタイプなんだ」


 しかし、最も片付かないのもこのタイプである。自分では、整理できていると思っているためだ。


「厄介だね」


 かといって、こっそり片付けるわけにもいかない。


「おいおい、運べ運べ!」


 食堂の窓から、声がした。


 ゴードン教授が、また椅子で移動させられている。


「教授の担当教室って、どれくらいあるの?」

「三か、四」


 そんなにか。


「基礎魔法学、各精霊魔法と使い手の相性の研究、あとはゼミ」


 全部合わせると、一〇を軽く超えるようだ。


「これでも減らしたほう。弟子に講義をさせている。でも、ズボラな教授の方が教えるのがウマイから、みんな教授に頼りっきり」


 で、あの始末だ、と。


「これは、教授の環境自体を変えたほうがよさそうだね」


 

 ~~~~~ ~~~~~ ~~~~~ 



「というわけなんだ」


 帰宅後、ジョシュアはリヨに大学でのいきさつを話した。


「アタシに言ってどうすんのよ? アタシはアンタの願いをなんでも叶えるゴーレムじゃないのよ?」

「そうだけど。誰かと話していると、アイデアが湧くかも知れないだろ?」

「湧かないわよ。独り言をブツブツ言っているだけよ」

「アドバイスが出ないなら、出てくれよ。集中できん」


 ジョシュアは、ベッドからリヨを引きずり降ろそうとする。


 だが、リヨはびくともしない。ベッドに根を張ってしまっているかのようだ。


「ベッドから降りてよ。ここはボクの寝室だぞっ」

「アンタこそ、よそへいきなさいよ」

「部屋なんていくらでもあるだろ?」

「だからって、どうしてアタシがどかないといけないの? アンタがよその部屋に行けばいいじゃないの」


 まったく、ああいえばこういう!


 だが、待てよ?



「それだよ!」



 ジョシュアは、リヨに抱きつく。


「なによ。ようやくアタシにオシリを捧げる気になったの?」

「違うよ! いいアイデアが浮かんだんだ! これなら教授も安心できる!」

「そう、よかったわね。では記念にオシリを」

「あげないよ!」


 ~~~~~ ~~~~~ ~~~~~ 



 数カ月を費やし、ようやくジョシュアはゴードン教授の大移動に成功した。


「なんや、これは!?」


 教授が驚くのも、ムリはない。視界に講義会場が広がっていたのだから。


「講義室だけやない。ゼミルームまで移動してるやないけ!」


 ゴードン教授の四方八方を、円形に書く施設で取り囲んだのだ。


「一連の動きから見て、ゴードン教授を倉庫から移動させるのはムリだと判断しました」

「ほう」

「ですから、部屋の方を改造したんです」


 教授を中心にして、北と東は講義会場、西と南はゼミルームへ。研究も、そこで行われる。密閉空間でしなくてもいい実験ばかりなのが幸いした。


 これで教授は、すべての生徒を見渡せる。


「で、倉庫はどないなったんや?」

「倉庫の方を移動させました」


 教室が空いた上に、必要な場所に必要なものを管理させている。なので、一箇所に集めていたときよりも楽になった。


「驚いたな。倉庫の整理だけやなく、ワシの移動も解決するとは」


 ゴードン教授は、手を叩いて喜んだ。


「ジョシュアすごい。厄介事をあっさり片付けた」

 

 リヨは言ってくれたが、ジョシュアは首を振る。


「すべては、報酬のためだよ」


 実は、ゴードン教授に近づきたかったのだ。


「要求する報酬はなんや? なんでも用意したるで」

「では、フェンリルの打倒方法を」

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