知らないうちに、世界平和に加担?

 一五歳になって、クラスメイトも変わる。

 だが、ジョシュアは相変わらずデブのままだ。


「まったく。いくらトレーニングしてもちっともやせないじゃない。どうやったらアンタみたいなダメ人間が出来上がるのかしら?」

「ボクだってマジメにやってますぅ! ダメ狼はキミのほうだろ?」


 街でリヨと口論しながら、雑貨屋でお菓子を買う。


「そんな甘いものばかり、食べてるからでしょ? 少しはリヨを見習いなさいよ。あの子、女性ばかりの魔術師団に入るって言ったそうね? もっと見識を深めたいってさ」

「男子に言い寄られるのを避けるためじゃん」


 モテモテのミラに、ジョシュアは内心焦っていた。自分とはもう釣り合わないのではないかと。


                   ◆

  

 窓の向こうでは、魔法科の生徒会が不良グループを取り締まっていた。


「きききみぃ! 子どもがタバコなんて買ったらダダダダメぇ!」


 生徒会長さえいれば楽勝なのだが、彼は近くで起きている銀行強盗の騒動に巻き込まれてしまった。ここは、ヘタレながら自分が戦うしかない。


「ああん? テメェ俺がタバコを買ったところを見たのか、ああん?」

「じゃじゃじゃあその手に持っているのはなんだ?」

「なにボディチェックするわけ?」


 ズイ、と、不良が生徒会に詰め寄ってきた。


「ててて手だけ改めさせてくれたらあぐう!」


 生徒会が手を伸ばした瞬間、不良が腹に一撃をくらわせた。


「ひいい」


 倒れた生徒会のシャツには、足型がついている。


「おら、ちゃんと調べろよ」


 生徒会の頭に靴を押し付けた。

 他の不良たちも、生徒会のメンバーに暴行を加えだす。


                   ◆


 ジョシュアは両手いっぱいにお菓子を抱きかかえて、店から出る。


「チョコバーに、アメ玉の缶。相変わらず甘い物好きが治らないわねぇ」

「甘いものでも食べないとやってられないよ。あーもう、どうして引き止められなかったんだろう……」


 ミラの進路を思い、ジョシュアはすっかりストレスがマッハになっている。


「問題は、アンタの方よ。進路どうするの?」

「そうはいったって。ボクは研究職がいいな」

「お金にならないじゃない。騎士団なんてどうよ?」

「警察機構は、興味ないなぁ。魔法を使った事務職がいいよ」


 体を張った仕事はスキじゃない。できでも警備員がいい。お茶を飲んで過ごせるって言うし。


「のん気ねえ。そんなんだからミラだって愛想を尽かすんじゃない」

「ミラは自分の人生を全うしているんだ。ボクなんて、邪魔なだけさ」


 一緒にリヨのもとで訓練していてわかるのだ。

 ミラは誰よりも賢く育つ。

 自分と一緒にいては、堕落した人生を歩んでしまうと。


「そう思ってるのは、アンタだけなのよ? アンタが引き止めなかったら、一生後悔するでしょうね」

「どうだか。きっとミラはボクのことなんて忘れてしまうよ」


「まっ……たく!」と、リヨが大げさにため息をつく。


「そんなんだからモテないのよ。甘いものは没収するわ」


 リヨが、ジョシュアの腕からひったくった。


「なにするんだよ!」


 ジョシュアも取り返そうとするが、リヨのすばしっこさに追いつかない。


 なにか筋肉のようなものに、ジョシュアはぶつかった。


 目の前に、不良が現れる。三人連れだ。


「狼連れのお兄ちゃん、お金くれないかな?」


 不良のリーダーらしき男が、ジョシュアの道を塞ぐ。


 足元には、生徒会のメガネくんが倒れている。しかし、ジョシュアは気にしない。


「くれても殴るけどさぁケケケ! 死ねやブタッ!」 

「うるせえな引っ込んでろ!」


 ジョシュアは、不良リーダーの土手っ腹を蹴飛ばした。


 リーダー格の不良が、くの字になって飛んでいった。反対車線にある銀行に突っ込む。


「ったく、今しゃべってんだろうが!」


 まだ、不良共が道を塞いでいた。

 今日の自分は、機嫌が悪い。


「邪魔だ失せろ」


 ジョシュアの一言で、不良たちが一目散に逃げ出す。

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