先日スタジオで、カメラマンと上河内さんから、紫津木の様子がおかしいとの報告を受け、本人を問いただすべく、後を追って声をかけた。


ところが、聞こえていないのか全く気がつかない様子。


結局、廊下では捕まえられず、控え室に入ってしまった。


ドアを開け放っていたので、そのまま中に入る。


中では、紫津木が、上半身裸の自分を鏡に映していた。


ただ、じっと見ている。


決してナルシストではない紫津木にしては、珍しい行為。

 

オレも目が離せなくなった。



すると、片手で口許を隠し、さらに見続ける。


その行為で、紫津木は自分ではなく、何か他の事を考えてるんじゃないのか?

…と、感じた。



今度は、その手で髪を乱暴に掻いたかと思うと、デッカい溜め息。


確かにいつもの紫津木ではないなとも思ったが、それよりもオレは、上半身の美しい筋肉の動きに目を奪われていた。

しなやかな陰影が艶っぽい、彫刻のような身体……


そして紫津木は、口角を僅かに上げた。



これ以上は、耐えられそうにない。



「そろそろいいか? 紫津木」



たまらず声に出した。



オレの中の欲求が膨らんで爆発しそうだった。



「葵さ……ん」


驚いたらしく、紫津木の肩がピクッと揺れた。

本当に気づいて無かったんだ。

常に周囲に気を配って、アンテナ張り巡らしてたヤツが……?



「紫津木の百面相は、レアだけど、そろそろ何か羽織ってくれないと、風邪引くぞ」



余裕のある大人の対応に見えるよな?


だが、オレの気持ちを分かってない相手は、また、自分の世界に入ってしまった。

オレの前で無防備になるんじゃない。

こっちは、隙あらばお前の身体に触れようとしてる男なんだぞ。



「忘れてるかもしれないけど、オレは、お前に告白したんだよ?」



心臓がどうにかなる前に釘を刺す。


だが、当の本人は、オレの質問の意味を理解してないのか、曖昧な返事。



「今でも好きなんだよ?」



言葉をかえて念を押す。



「?……わかってます」


「わかってねぇよ」



分かってない癖に分かったなんて台詞を吐く、目の前の相手にイラッとして、つい口調が強くなってしまった。



「そういう所も好きなんだけど……ね」



男前なのに、時折見せる鈍い所が好きなのは事実。


だけどねぇ、本当にギリギリなんだよ。


自分のジャケットを脱いで、見ないように視線を逸らしながら、紫津木の肩にかけた。



「オレの理性に感謝しろ」


「へっ?」


「お前の事…抱きたくてしょうがないんだ」



嘘。


オレは嘘をついた。


抱きたいんじゃない。



紫津木に



抱かれたいんだ。





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