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20年前 倉庫街の一角の廃工場。
そこがオレ達REDMOONの溜まり場だった。
事務所に使用されていた部屋が、オレ達幹部数名の部屋、下っ端の連中は、広い工場の中を適当に使ってた。
学校帰り、部活のようなノリで集まっては、流しに行ったり、この部屋でグダグダと明け方まで過ごしたり…まあ、仲間と過ごすだけで楽しかった。
あの日も、そんな感じに過ぎていくのかと思ってたんだよね。
部屋には、他の幹部がたまたま来てなくて、オレとリュウと宮内の3人しか居なかった。
単車で流して来ようかと思ったが、ゴールデンウイーク真っ只中のせいで、道路が普段に比べて空いていて、そんな中をとばしても、クソ面白くもなかった。
そんな時だ。
「リュウ兄ぃ」
扉の隙間からチョコッと顔を覗かせたのは、リュウの4歳の弟、
兄ちゃん大好きな弟で、時々ついてくる。
下っ端の連中が、いい遊び相手だ。
「おきゃくしゃんだよ」
「……客?」
誰だよ。こんな所に。この場所は、仲間しか知らないはずだ。
……ぁ…そういや、もう一人いたわ。一年前に別れたリュウの彼女…
「おねぇしゃん、おいで」
お姉さん…?
「どちて? おいでよ」
部屋の外で揉めてるのか、よく聞き取れないが、数名の声が聞こえる。
「ダメ! リュウ兄ぃ、まってるよ」
まあ、子供の声はよく通る。
痺れを切らしたリュウが、ソファから立ち上がり、扉に向かった。
「…トラ、どうした?」
リュウが、扉の外を覗くと同時に下っ端の声がした。
「リュウさん! 何でもありません!」
「タカシ。お前の背中に隠してるのは何だ?」
オレも気になり、リュウの隣に行って扉を全開にし、外の様子を見た。
タカシはオレの顔を見ると、ますます緊張の色を濃くしたようだ。
「おねぇしゃんだよ」
無邪気なトラ君が、背中に隠れている人の腕を引っ張ると、か細い腕が現れた。
「タカシ。もういい。下がれ」
「でもリュウさん…」
「すみれなんだろ? 大丈夫だ。何も起きねぇよ」
えっ?すみれちゃん?!
タカシが一礼し、その場を離れると、俯き加減のすみれちゃんがそこに立っていた。
「すみれちゃん?! どうした?! 確か妊娠中じゃなかったっけ?」
「おそとにいたから、ボク、おいでぇしたの」
「あっあの…! 私…たまたま…隣に来ていて…それで……」
だんだんか細くなってくすみれちゃんの声。
隣には、すみれちゃんの実家が経営している一つの有栖川物流の倉庫がある。
まっ…2人が出会ったきっかけではあるんだけど…。
すみれちゃんは俯いたまま。
ゆったりとしたワンピの生地をくしゃくしゃに掴んでる。
「とりあえず、中に入って座ってもらったら? 妊婦さんなんだし」
「おねぇしゃん、はいろ」
トラ君が、すみれちゃんの手を引いて入ろうとした時、今まで黙って聞いてた男が口を開いた。
「アンタの居場所なんて、ここには無ぇよ」
ソファに座ったまま、すみれちゃんには視線もくれずに。
宮内…。リュウ大好きだからな。
「オレは、アンタがリュウにした仕打ちを忘れてねぇ」
あっちゃ~
「宮内…」
オレが言うより先にトラ君がかけてって、宮内にグーパンチを喰らわした。
「おねぇしゃんイジメるな!」
「トラ、
「…だって…おねぇしゃん…かわいそ…」
トラ君の純粋な言葉に、汚れちまったオレ達は静かになる。
「……アキ…悪いな」
宮内は、きまり悪そうにそっぽを向いた。
宮内晃を女みたいに、アキと呼べるのは、リュウだけ。
まあ…幸か不幸か、宮内の気持ちにリュウは、気づいてないみたいだけど…。
トラ君も、しゅんとなって宮内の隣に座った。
この二人、普段は仲良しさんだからね。
リュウは、改めてすみれちゃんに向き直った。
「如月さん。アキの言う事も一理ある。ここは、あなたが来るような場所じゃない。如月のボンボンの所に帰れ」
冷たい視線。付け入る隙もない、完全なる拒否。
それがお前の優しさかもしれないけど、やっぱオレは…、
「ちょっと待って。すみれちゃん、本当は何か話があって来たんじゃないの? そんな身体で来るほどの大事な…」
すみれちゃんは、オレの言葉を遮るように儚げに笑って、こう答えた。
「やはり、来るべきじゃありませんでした。……哲哉さん、ありがとう」
もう一度、リュウに視線を送ったが、冷たい態度に変わりはなく、涙を堪えるような表情で一礼すると、そのまま顔を上げることなく出口に向かっていった。
「オレ、心配だから、そこまで送ってく」
すみれちゃんの背中を見守りながら、工場内を歩いていると、
その背中が、目の前で崩れた…。
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