第18話 サラの決意
彼女はこれまで旅をしながら子供の頃からの思い出を辿り、両親の事を考えていた。
フリーホイールから東へおよそ千キロ。
セントセフトスの町を駆け抜けひと暴れし、タイムズアウトア街を燦然と轟かせた。
その日、陽が沈みブリンギングスの街に入るとハーレーを停め、公衆電話にコインを入れた。
電話の向こうはエリザベスお嬢。エリザベスは大声で返した。
《何してんのよ、じゃないわよ! サラ、あなた今どこにいるの? もう三日も……》
「ごめんごめん。あなたのボディガードはもう終わったと思って。パワーファイターの彼にコクられて」
《もーう、やめてよー! タネンきらーい、あいつ本当はあなたのことが好きだったのよー》
「うっそ! うへー! パグ・タネンがぁ?」
《……ていうか、本当にシュガーマウンテンに?》
「そうよ。私は夢見る少女ですもの」
《信じてるのはいいけど……無茶しないでね》
「わかってる」
《本っ当にマジに絶対、ちゃんと帰ってくるんだよ! 私あなたがいないと生きてけないからー!》
おいおいそこまで言うなよと、サラは笑って頷いた。
「……ありがとうベス。またね」
受話器を置き、スティール・ホースの脇に腰を下ろす。
誇らしいフロントフォークに夜空の星が煌めいている。
胸元を広げ、ネックレスの
たとえそれが幻影でも幻想でも信じて走ってきた。
あの事があってから……ずっと希望を追い続けた。
光の竜よ、聖なる生命の水よ……
彼女は祈る。大切な人のために。
****
サラはハーレーに乗って砂漠のハイウェイを行く。
一九九二年九月二十六日、いよいよその地に辿り着こうとする。
五年前の事件の悪夢を取り払うため。
トミー・フェラーリが母クリシアの耳元で拳銃の引き金を引き、彼女は両の聴力を奪われた。
内耳
精神的ショックもあり重度で、難聴と耳鳴りが続いた。
投薬での治療は不完全で、目眩も酷く立っているのが困難になっていった。
ブリウスの撃たれた左腕は完治したが自責の念で彼の苦悩は続いた。
酒を飲んでは隠れて泣く父親を、サラは見たくなかった。
サラの暮らしは暗く一変した。
道に立てないほどつらい日々もあった。
それでもサラはクリシアの前では笑顔を絶やさなかった。
リバ族の村長オールドマンは言った。
「シュガーマウンテンには伝説がある。光の竜の棲むラグーンの水は〝聖なる生命の水〟。それは傷を癒し心を癒し命さえも蘇らせるといわれる奇跡の水。再生の水。わしの祖父にあたるゴールドハートはその水で祖母の病いを治した。そう伝えられてきた。わしやアーロがここに
サラは信じた。
オールドマンから授かった守護石セイレイを握りしめて。
旅立つ前、サラは母クリシアの頬に優しくキスをした。
傍らで見つめるブリウスに
「必ず帰ってくるから」と、笑って見せた。
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