思考の変化とその後の末路(悪魔兄弟)

「……はぁ、どうしたらいいんだろ」


 その日私は、親友にとある相談を持ち掛けていた。

その親友には、カードたちとの物語を話しており、興味深いと気味悪がることなくいつも聞いてくれていた。そんな親友だからこそ、相談できることだと思ったのだ。


「弟は兄に対する過度な尊敬の意の表現を確実に誤っているんだよね……ここを崩さないとどうしようもないというか」


 私が親友に持ち掛けた相談は、デビちゃん兄弟のことだった。兄であるデビちゃんに対する弟の態度を何とかしたいと、日々いろいろと考え実行してみるものの、なかなかうまくいかずに困っているのだ。

 デビちゃんもまた、自分なりに動いているようだが全く効果なし。本人も半分諦めかけているようだった。そんな日々の愚痴を聞いてもらおうと、親友に話を持ち掛けたのが始まりだった。

 すると、親友はしばらく考え、こういったのだ。


「弟さんって、自分と一緒にいて楽しそうに笑うお兄さん見たことないよね? いつも遠目でお兄さん見てるだけみたいだけど、笑った顔見たいと思わないのかな?」


 その言葉に、私はぴんと来た。そうだ、確かにそうだ。

 弟はデビちゃんを異様に尊敬しており、自分のような身分の者が兄の横に立つなど失礼極まりないと言っていた。そのため並んで歩いたりはせず、食事も兄の食事をする姿をカメラで録画し、自身の食事時に再生するという、何とも奇妙なことしかしていなかった。

 無論その映像には淡々と食事をする兄の姿しか映ってはいない。これが一緒に食べている映像になればどうだろう。仲睦まじく食事を共にする、兄弟に見えるのではないだろうか。

 そう考えた私は親友に礼を言い、その日の夜、弟さんの部屋を訪ねた。


「弟さん、いる? ちょっと話があるんだけど、いいかな?」

「これはこれは主様ではございませんか、このような時間に訪ねてこられるとは、非常事態か何かですか? まさか、兄さん不足による禁断症状が……? これはいけません、すぐに応急処置を施さなければ……! お待ちください早急に兄さんの拡大写真を……!」

「うん、とりあえず落ち着こうか。禁断症状は出てないし、拡大写真もいらないし応急処置も施さなくていいから先ず話を聞いて。弟さんはさ、デビちゃんのこと尊敬してるって言ってたよね?」


 相変わらずの態度に苦笑しながら、私は話を本題へと持っていく。ここからが勝負だ。


「勿論でございます、兄さんは私が最も尊敬するお方です。あ、主様はその次に尊敬しておりますよ? それが何か問題でも……? まさか私と兄さんを引き離そうとお考えなのですか? いくら主様とはいえ、仮にそうお考えなのであれば容赦は致しませんよ……?」

「落ち着け、被害妄想やめなさい。そうじゃなくてね、弟さんはいつもデビちゃんの写真とか収めてるけど……弟さんと一緒にいるデビちゃんって、見たことないんじゃない?」

「私と……一緒に?」

「デビちゃんも言ってたけど、私は折角の兄弟なんだからもっと仲良く過ごしてほしいって思うの。弟さんの尊敬する気持ちもわかるけど、尊敬する前に家族なんだからさ。兄弟で食事をしたり一緒に遊んだりして、笑っているデビちゃんの顔とか見たいって思わない? 弟さんが撮ってる写真のデビちゃん、全然笑った顔ないじゃない? それが笑顔でいっぱいになったら、とても素敵だと思うの」


 私の言葉に、弟さんは固まった。彼も彼で思うところがあったのだろう。そこで私はある提案をした。


「そうだ、明日の夜私とデビちゃんと弟さんの三人でご飯食べようよ! その時に写真撮れるだろうし、試しに一緒に撮ってみようよ!」


 次の日の夜、私はデビちゃんと一緒にデビちゃんの部屋で弟さんが来るのを待っていた。どこか落ち着きのないデビちゃんを慰めていると、ドアをノックする音が響く。

 デビちゃんが返事をすると、ぎこちなくドアが開き、おずおずと弟さんが部屋に入ってきた。

 互いに緊張しているのか、空気が途端に冷たくなる。これではいけないと、さっそく私が弟さんを椅子に座らせ、デビちゃんにその横に座るように促した。弟さんが逃げ出さないように端っこの椅子に座らせていたおかげで、弟さんも諦めがついたのか、おとなしく座った。


「やっぱり、このほうがいいよ! 兄弟って感じがするし、楽しそう! 弟さん、デビちゃんの顔見てみて。とても嬉しそうだよ! こんなお兄さん見たことないんじゃない?」


 デビちゃんはよほど嬉しいのか、普段はめったに見せないような満面の笑みを浮かべ弟さんを眺めている。そんな姿を見てか、弟さんも最初こそ固まっていたが、段々と恍惚の笑みを浮かべ始めた。

 そのすきにカメラを向け、一枚撮る。もう一枚撮ろうとカメラを再び向けたとき、デビちゃんがおもむろに弟さんの肩を抱き寄せ、ピースサインをした。一瞬驚いた様子の弟さんだったが、すぐに笑顔になり同じようにピースサインをした。

 それはどこから見ても仲の良い兄弟の姿をしていた。


「おいブス、助けてくれ……!」


 後日、デビちゃんの相談内容が、弟がトイレまでついてきて離れてくれない。というのに変わったのは、言うまでもない。この兄弟の課題は、まだまだ続くのだと悟ったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る