私と彼等の日常は、あまりにも非現実的過ぎる2(逆位置編)
死神の嫁
一欠片の宝石(愚者の逆位置)
普段『怠い』が口癖の、『愚者』の逆位置。彼の元へ通い続けるうちに、少しずつ成果が現れ始めた。
「怠い……」
「そっか、いいことがあって良かったじゃない!」
彼の言葉の微妙な変化から、今何を思っているのかや、どんな事があったのかも分かるまでになってきていた。彼の性格上、自分に起こった事柄を一から説明するのを面倒がるので、深く聞かないで同調すると、会話が続く。
彼もまた、私の事を少しずつ理解して来たようで、前のように私の顔を見た途端に怠いとは言わなくなった。それが嬉しく思っていたある日。
「……ん」
「ん? 何これ?」
突然彼が、ポケットから小さな欠片を取り出し、私の手の上に置いて来た。意図が掴めず困惑する私に、心底面倒臭そうにしながら、渋々彼が口を開いた。
「俺の、宝物だ」
「もしかして……これ、宝石?」
彼から渡されたものをよく見ると、それは一欠片のエメラルドだった。一般的な宝石と比べて形はかなり小さいが、丁寧に磨かれているからか神々しく輝いている。面倒臭がりな彼にしては珍しく、毎日磨いているらしい。あまり指紋がつかないようにしながら彼に返し、言葉を続けた。
「凄く綺麗だね……こんなに小さいのにどんな宝石よりも輝いているみたい」
「……お前も、そう思うか?」
「え?」
「……他のやつは、こんな小さいのになんの価値があるんだって言う。小さくとも、こいつは立派な宝石だ……俺は、そう思う」
それは彼が初めて自分の意見を口にした瞬間だった。喜びと同時に、何時もこうやって色んなことを考えているんだと分かり、もっと彼が話したくなるような状況にしてあげたいと思った。
「私も、同じだよ。どんなに小さいものでも、こうして大切にしてくれる人がいれば、何度でも輝ける。貴方の大切な宝物であることに、変わりはない。この宝物に勝るものなんて、どこにもないよ」
「……いや、それは違う。こいつは俺にとっての宝物ではあるが、今はそれ以上の宝を見つけた」
「それは何?」
「……怠い」
結局それ以上の宝が何であるのかは聞けなかったが、嬉しそうに笑う彼を見て、私も嬉しくなったのだった。
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