文化祭⑦

「ちょ、ちょっと待ったあああああああああ⁉︎」


 視線の雨が、痛いほど俺に降り注ぐ

 注目を集めることを嫌う俺にとって、この状況は拷問以外の何者でもない。が、もうやるとこまでやるしかない。


 俺は視線から逃げるように、ダッシュで壇上へと向かう。 


「おおっ⁉︎ 乱入イベントキタああああああ!」


 司会の人が盛り上げると、体育館が一層賑やかになった。可能な限り穏便に済ませたいが、もうそんなこと言ってる場合じゃない。


 壇上へと上がると、俺は花村先生の隣に着く。


「‥‥‥俺も桜宮先生のことが好きです! 花村先生と結婚しないでください! 俺が十八になるまで、待ってください! 必ず、幸せにします!」

「‥‥‥ッッ」


 俺の告白を境に、体育館の盛り上がりは最高潮まで上がる。

 いよいよ収拾がつかなくなる様相を示す中、司会が実況を始めた。


「これは面白くなってきたあああああ! 私、興奮してきましたよっ!」


 今更だが、あの司会の人大変だな。喉潰れないといいけど。


「‥‥‥っ、な、何を考えてる瀬川。お前にはカノジョがいるはずじゃ」


「それはこっちのセリフです。なんつータイミングで告白してるんですか花村先生っ!」


 体育館が喧騒に包まれる中、俺と花村先生がコソコソと会話をする。

 と、いよいよ桜宮先生が俺と花村先生のどっちを選ぶのか、そこに一同の興味の矛先が向かう。


 勢いに任せて出てきたが、後は桜宮先生次第だ。

 さっきの空気感に比べれば、まだ告白を断りやすい雰囲気がある。


 ここでスパッと「ごめんなさい!」の一言があれば、まるっと解決する。

 俺が桜宮先生の言葉を待っていると‥‥‥しかし、次に口を開いたのは、桜宮先生ではなく。


「ちょ、ちょっと待った!」

「俺もちょっと待った!」

「お、俺もだ。抜け駆けすんな!」


 観客側からだった。

 続々と壇上へと向かってくる男子諸君。

 この学校には、桜宮先生にガチ恋している生徒が思った以上に多かったらしい。


 気がつけば二十人以上が、桜宮先生に告白する流れになっていた。‥‥‥なんだこれ。


 結局、壇上に上がった全員が桜宮先生への想いをぶつけ、



「‥‥‥ごめんなさい!」



 桜宮先生の一言に撃沈したのだった。


 ミスコンから告白祭りに一変したものの、ひとまずひと段落はつきそうだ。大ごとになったことで、コントっぽくなったのが逆に救われた。


 ちなみにミスコンの優勝は、篠塚さんだった。




 〜〜〜



 ミスコンが終わり、現在、人気のない階段の踊り場に移動していた。さっき、俺と楓と宗二そうじさんの三人で話していた場所だ。


 宗二さんは、俺の肩に手を置くと、満足げな吐息を漏らす。


「見直したよ。湊人くん。あの場で行動を起こせるとは思わなかった」


「は、はぁ。どうも」


「まだ完全に湊人くんのことを信用した訳ではないが、ひとまず様子を見よう。もし今後、浮気と思しき行為を発見したらその時は‥‥‥ふはは」


「ふはは⁉︎」


 何されるんだよ‥‥‥怖いよ。怖いよこの人。

 相変わらず、宗二さんのキャラクターがよくわからない。


 ともあれ、俺が行動を起こしたことによって、宗二さんは少なからず俺のことを認めてくれたらしい。

 今後とも、桜宮先生の婚約者役は続けていけそうだ。‥‥‥いや、別に続けたいわけではないけど。

 ただ一度引き受けた以上、最後までやり切る性分なのと、ここまで付き合ってきた以上、桜宮先生には納得のいく婚約者を見つけてほしいとは思っている。


「では、私はもう帰るとするよ。お忍びで来ているしね。由美に見つかると、怒られかねない」


「そうだったんですか。では、またいつか」


「ああ。またな湊人くん」


 宗二さんは柔和な笑みを浮かべると、踵を返した。さて、これからどうするか。

 楓はもう家に帰っているだろうし、図書室あたりに行こうか。


 自業自得ではあるが、さっきの告白祭りで俺の知名度は急上昇している。少なくとも、文化祭最中は人目のつく場所から離れた方がいい。


 そう思って、本校舎の三階へと向かおうとした、その時だった。ブルブルとスマホが震える。


 見れば、桜宮先生からの着信を受けていた。


「‥‥‥はい。瀬川です」

『あ、今ってどこにいるかな。会えたりする? まだ楓ちゃんと一緒かな?』

「いえ、楓はもう帰ってます。会おうと思えば会えますけど」

『そっか。じゃあ生徒指導室に来てくれるかな。鍵は空いてるから』

「わかりました」

『うん。待ってるね』


 通話を切ると、俺は図書室から生徒指導室に行き先を変えて、歩き出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る