支援者様たちの声

 山と平原の世界。薔薇公爵領。


「ほう、復讐クラウドファンディングか。この世界では久しぶりだな」


 書斎の魔法の本を開いた薔薇公爵は、新しく追加されたプロジェクトが地元のものだとわかると、関心を持った。そして、復讐対象がよく知る人物だと気付くと、更に興味を持った。


「睡蓮公女アヤ……よりにもよって、か。これはいい」


 睡蓮公女は薔薇公爵にとっては目の敵である。彼女さえいなければ皇太子の婚約者の座は彼の娘になるはずだ。


「よし、頑張れよ小僧。最高コースで応援して……1億……」


 羽ペンでサインして、クラウドファンディングに申し込もうとした薔薇公爵だったが、法外な値段にペンが止まる。しばし止まったペンは、1つ上の『復讐完遂をリアルタイムで見届けたいコース』へと移動した。


――


 山と平原の世界。聖ミルスティア教総本山。

 日課の祈りを捧げていた教皇レンディウス8世の脳裏に啓示が降りた。復讐の女神エリニュスからの啓示だ。すなわち、復讐クラウドファンディングである。


「これは……なんとむごい……」


 レンディウス8世の頭の中に流れ込んでくるのは、同じ世界にある小さな村の惨状。そこにたった1人残されてしまった少年の慟哭。現世の人々を導く宗教の最高指導者であるレンディウス8世が心を痛めるには十分すぎるプロジェクトであった。

「このような事が許されてはなりません。復讐の女神に供物を準備しましょう」


――


 山と平原の世界。ロータスブルグ城。


「凄い、凄い。こんなにもたくさんの人たちが、フィン君の復讐を応援してくれてる!」


 魔法の水晶には、睡蓮公女への復讐クラウドファンディングに次々と応募が集まっている様子が映し出されている。それを覗き込む女性は、注目の集まりように満面の笑みを浮かべていた。


「頑張ってね、フィン君。私、『特等席で復讐を見届けたいコース』に応募したから!」


 復讐現場への転移は危険が伴う。復讐が大規模なものになれば巻き添えを食う可能性があるからだ。しかし彼女はそれを物ともせず、最高額コースへの申し込みを行っていた。自身の悦楽のためだけに。


「ああ、待ちきれない、貴方の復讐を特等席で見れるその日が!」


――


 金と宝石の世界。カジノ『ライバーランズ』。


「ヒヒヒ、これは素晴らしい……完全無欠の才女様が地に侍る姿を見られるとは!」


 モニターに映る復讐クラウドファンディングの情報に老人は興奮していた。彼はプライドの高い人間が無様に敗北する様子を観察するのが趣味の人間だった。若い頃は自分の手で数々の人間をギャンブルで破滅させ、遂にはカジノのオーナーになってしまった。

 それからはこうして復讐クラウドファンディングの支援を趣味にしている。復讐の女神からクラウドファンディングサイトを紹介された時は驚いたが、人間の本質は異世界でも変わらないと気付いてからは、喜んで投資するようになった。


「金に糸目をつけるな! 支援だ支援! 放火などで止めさせるな! 殺せェー!」


 老人の命令に、脇の秘書たちは一礼すると、プロジェクトへの投資手続きを始めた。


――


 石と雷の世界。新宿。

 床の間と畳の部屋で、男がノートパソコンの画面に向かっている。


「なんですか、それ?」


 その画面を後ろから覗き込む女がいる。男は答えた。


「復讐クラウドファンディング。異世界の少年が村を焼かれたから、犯人に復讐するための金を集めてると」

「まるで昔のアナタですね?」

「……いやまあ、俺も使ったことあるし、ここ」

「本当ですか!?」

「そうじゃなかったら今頃野垂れ死んでたさ」


 男と女はプロジェクトページに目を通す。ページには、フィンという少年の窮状と、無残にも焼き尽くされた村の写真が載っている。


「こりゃ可哀想だな。よし、この映像確認コースを……」


 リンクをクリックしようとした手を、女が止めた。


「ダメです。一番安いのにしてください」

「何でだよ、このままじゃ城に火を点けるだけで終わっちまうぞ!?」

「高いです! 何ですか600万ドルガって! 日本円にするといくらなんですか?」

「これは異世界の通貨で、実際には女神レートで変換されるから……」

「いくらですか?」


 真っ直ぐ見つめてくる女に対して、男は視線をそらして答えた。


「……300万円」

「一番安いのにしましょう」

「あ゛っ」


 有無を言わさず、『とにかく復讐を支援したいコース』がクリックされた。


――


 百万魚類の世界。エリュテイア。


「うわっ、もうこんなに集まってる……」


 水晶玉を通してクラウドファンディングサイトを見た少女は、その額の跳ね上がり方に驚愕した。

 少女もクラウドファンディングで復讐資金を集めているのだが、フィンの復讐プロジェクトは、彼女の倍のペースで資金を稼いでいた。


「ていうか、このページ、凄く丁寧に作ってあるじゃない……私のとぜんぜん違う。あの女神、えこひいきしてるんじゃじゃないでしょうね」


 少女のいる洞窟は入り江に繋がっている。入り江の水面には、巨大な魚の形をした機械が浮かんでいた。


「私のペンプレードも、これぐらい集まったら飛行機能や変形合体機能がついたのに……」


 彼女がクラウドファンディングで集めた資金を注ぎ込んだ、機動鎧鮫『ペンプレード』だ。残念ながら第2ゴールまでしか辿り着けず、一部機能はオミットされたが、それでも姉への復讐には十分すぎる性能だ。


「まあいいわ。復讐しちゃえば全部同じよ。待ってなさい姉さん。呑気に魚を配る生活を、もうすぐ終わりにしてやるんだから……!」


――


 遠き星雲世界。シヴァ星衛星軌道上、戦艦『ノース・デン』ブリッジ。

 宇宙戦艦を統括するAIが、情報収集AIよりの提言を受け取った。


《女神エリニュスより新たな復讐クラウドファンディング・プロジェクトを受領》


 情報が各種AIと共有され、それぞれの判断が下される。


《倫理AIは正当な復讐と判断。出資に賛成します》

《対外交渉AIは出資に反対します。別世界への介入は不要な混乱を引き起こす可能性があります》

《交渉AIより疑義。復讐メイキング映像200万ドルガは不当と判断》


 合議制AIにより、戦艦『ノース・デン』の方針は決まった。


《問い合わせフォームより、女神エリニュスに質問を行います》


――


 輝ける楽園の世界。ロンディウム。

 水晶から放たれた光が映像を作り、クラウドファンディング情報を形作る。それを見た男は、驚きの表情を浮かべた。


「睡蓮公女……!? そんな、まさか……」


 彼は水晶を操作し、自分のドルガを確認する。資産は十分にある。問い詰めないといけない。迷わず『特等席で復讐を見届けたいコース』を選択した。

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