第1話 私はアイラ=デンゼル

 私は夢を見ている。実に生々しい夢だ。なぜだかこの夢を見てはいけないと、警鐘を誰かが鳴らしている。だけど、目を覚ますことができない。

 周りに立ちこめ、迫る炎、無垢な少女の顔に飛び散る鮮血、少女を抱きしめる体温の下がった女、その直後、泣いている少女は知らない人に抱かれて迫る炎から逃げる。少女の顔が見えない。あなたは誰?どうして泣いているの?

ふと少女の口が動いた。何を言っているのか分からない。何?何が言いたいの?ぼそぼそと何かを言っている。次第に聞き取れるようになってきた。


「・を・さま・・・・目を覚ませ!」


カバリと机に突っ伏していた体を起こした。あの少女の言葉にひどく戦慄した。悪寒が走った。鳥肌が全身に立ち、その直後につぅっと冷や汗が流れた。が、教室のみんなが、私の方を驚いたように見ていることに気づく。もしやと思って、先生の方を見ると、怪訝そうな顔をしていた。


「デンゼル!お前!また寝よって!」


先生が大きな声を上げる。小さくすみませんと言えば、先生は興味をなくしたのか、授業に戻った。恐怖を抱いていたのに、今は羞恥を感じている。面白くない授業をするのが悪いと、少々悪態をついた。もちろん、反省などしてない。目線をどこに向ければいいのかしばらく分からず、結果的に黒板に目を向けた。


「え~、500年前、世界統一機構の最高幹部であった、、レフリアルが同じく幹部のジルアに暗殺されて・・・・」


先生の怠そうな声が聞こえてくる。つまんない。歴史の授業なんて、つまらない。目を関心のない教科書に向けて、ぼぅとしていた。


ヴーッヴーッヴーッヴーッヴーッヴーッ


けたたましいほどのサイレンが鳴り響く。ぼぅとしていたので、びくりと体を震わせた。自分を落ち着かせるために、周りを教室の皆を見た。あからさまに狼狽えるている。サイレンが鳴り止むと、放送が流れる。


「皆さん、今し方にこの学校周辺で魔法族の存在が確認されました。警備隊が周りを捜査するようですが、下校する際は、複数人で帰るなどの対策をとって、気をつけて下さい」


魔法族がこの辺に出るなんて珍しい。教室の皆は、怖がっていて、ザワザワしていた。先生は、忌々しい魔法族めと呟いていた。周りからも怖い、どうしようと聞こえてくる。どうしてだろうか。私は、その言葉を忘れられなかった。




 下校時間になっていた。が、友達など私にはいない、所謂ぼっちなので、一人で帰る。別に悲しいことはない。一人でも十分なのだ。ぼっちが悪いのではない、ぼっちが惨めだという傾向が悪いのだと心の中で一人呟く。


 ふと、おばあちゃんに買い物を頼まれていたことを思い出す。スーパーに行くには、さっき通り過ぎた角を曲がらないといけなかった。さっきと言っても、随分前だ。チラリと横にある薄暗い路地を見つめる。片側には、寂れた建物、反対には、物々しい雰囲気がある雑木林。ここの路地から行けば、近道になる。さっきの角まで戻らなくてもいい。私は、薄暗い路地に足を進めた。


 近道といっても、人がいなくて静かすぎる。日も傾きかけていて、さっきよりも薄暗くなっていた。私のローファーが地面を蹴る音が辺りに鳴り響くだけだった。少々の恐怖心を誤魔化すように、早歩きになっていた。そのときだった。雑木林の方から、何やら声が聞こえる。私は、聞き間違いだと思い、無視しようとするが、声が争っているような声だった。私は、気になって雑木林に吸い込まれるように入っていった。

 木や茂みに隠れながら、音を立てないように声のする方へ目を向けた。その光景に、私は思わず立ちすくんだ。女性が男に襲われかけているところだった。咄嗟に声を上げようとしていた口を手で覆う。


「いやぁぁぁ!離して!離してよぉ!誰かぁあ!助けてぇぇえ!」

「大人しくしていろよ。こんなところ誰も来ねぇよ、ゲへへ」


男が下衆な笑いをした瞬間、鳥肌が立つ。まずい、どうしよう。心臓が、周りに聞こえているのではと思うくらいにバクバクしている。警察に連絡しないといけない。でも、連絡している間にあの女性が襲われてしまう。鞄から、そっとスマホを取り出して、震える手で警察に電話をかけようとする。が、魔法族が出たという話を今、思い出してしまった。その瞬間、得体知れないものがゾクッと全身を走った。


「ゲへへ、魔法族の俺に、非魔法族が勝てるわけないんだよ!大人しく襲われてな!」


動揺してスマホを地面に落としてしまった。二人の声以外しない、この雑木林にひどく響いた。しまったと思ってももう遅い。


「誰かいるのか?」


バレた。しまった!魔法族の男が来る!私は、武器になりそうな物がないか必死に探すが、全然見当たらない。終わった。助けて。鞄の中身が目の端に映った。ペンケース。私は腹を括った。なぜなら、武器になるのは、ペンケースのはさみだけだったからだ。


男が私の隠れている木をのぞき込もうとしている。その瞬間、私は木の影から勢いよく男に教科書を投げつけた。男は、驚いて、教科書に怯んだ隙に男の足にはさみを勢いよく突き立てる。男はその痛みから、大きな悲鳴のようなものを上げた。その隙に女性の元へ行き、逃げるように手を引っ張った。女性は、放心状態であったが、私が大声を上げると我に返った様で、急いで逃げ出していた。


私も逃げないとと思った瞬間、私の近くの木が炎上した。いきなりのことに尻餅をついてしまった。私は男の方向を見た。男は、ものすごい形相でこちらを睨んでいた。


「どうしてくれんだよ、嬢ちゃん!せっかくおいしい思いができると思ったのによぉ!落とし前、どうつけんだよ」


男の大声に驚いて、震える足を酷使して走り出す。なるべく大通りへ!そして警備隊の元へ!そう思ったのも束の間、足にナニかが掠める。その瞬間、激痛が走った。


「ぐ、あぁぁぁぁぁ!」

「ケッ、手こずらせやがって。あの女は逃がしちまったが、まぁいい。お前で」


男が足を引きずりながら、杖のような物をこちらに向ていた。男は、私を見てニタニタ笑っている。終わった。襲われる。もうどうしようもなかった。私は、この男に抵抗する術を持たない。嫌だ・・・


「所詮、何も持たないお前たち非魔法族は、慰み物にされてりゃいいんだよ!」


そうだ。こいつは、この男は、魔法族で、私は何も持たないただの非魔法族だ。それを自覚していなかった。自覚したとき、もうすでに遅い。形容しがたい恐怖が、全身を走る。私は諦めの念を込めて、目をつぶった。そんな私の体に生暖かい風が吹き抜ける。周りの葉や枝がザワザワと揺れる。その音の中に、かすかに声が聞こえた。


「お前は知っている。知っているだろう。お前は、あの男を・・・」


はっきりと声が響いていた。あの夢の声。今度は、怖いとか思わなかった。しかし、何を言っているのかがよく分からない。知っている?何を?言葉の続きに耳をすませた。


「お前は、あの男の倒し方を知っている。知っている。お前には、継承したモノがあるだろう?」


倒し方を知っている?ただの非魔法である私が?どうやって?何?継承って、何を継承したの?非魔法の私が・・・・


「目を覚ませ、お前は、誇り高き――――」


その瞬間、全身の震えが止まり、目をカッと見開く。近くにいた男が、ビクッと肩を震わせる。私は、側に落ちていた枝を思い切り引ったくる。素早く男と距離を取り、ゆっくり枝を持った腕を男に向ける。眼光が鋭いのは、自分自身でも分かった。さっきまで怯えていた男を、ひどく冷静に目に捕らえることができた。男が下衆な笑みを浮かべながら何かを言っているが聞こえない。私は集中している。


「私は、私は・・・・」

「あ?なんか言ったか?」

「私は!お前のような下衆な者ではない!私は!私こそが誇り高き魔法族だ!」


ひどく声を荒げて、悲鳴のような声で叫ぶ。全身から得体の知れない力が湧き出る。その力が枝に伝わり、火花を枝の先端で発生させた。よく分からないが、枝を強く握って、男に振りかざす。


「うあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


声を上げて、大きな電撃を放った。まぶしいくらいの電撃を一心に男に浴びせる。男は何やら同じような力を出して対抗していたが、私の電撃が大きくなり、広範囲に広がって男に直撃した。男は、後方に飛ばされ、木々が焼ける匂いがする。私は、ひどい倦怠感と安心感に襲われて、気を失った。


 何か物音がして、目を覚ます。私は木に体を預けていて、体には上着が掛けられていた。さっき負った傷は手当てがされている。寝ぼけた目を擦ると知らない同じような年齢の女ともう一人女が話し合っていた。二人とも見たことない人だった。さっきの男の仲間かも知れない。逃げたいが、体が寝起きなこともあるが、痛い。うまく二人から逃げることはできないかも知れない。しょうがない。声をかけよう。


「誰?あなたたち・・・」


私の掠れた声に気づいた二人が心配そうにのぞき込んできた。どうやら敵ではないようだ。二人は、私が大丈夫そうなのを確認すると、何やら話し合って一人はどこかに行ってしまった。もう一人の、私と年の変わらない少女が私に話しかけてきた。


「大丈夫・・・そうね?確認したいのだけれども、いいかしら?」

「はい、大丈夫です」


そこから、少女が質問してきた。


「まず、これはあなたがやったこと?」


周りに目を向けると、周りの木々は焼き焦げていた。先ほどの出来事を思い出した。そうだ、私のやったことだ。


「ええ、私がやったこと」


そう答えたが、冷や汗がドッと出てきた。魔法族がいるなんてバレたらどうなってしまうのか。答えは簡単だ。殺される。私は、周りに人がいないことを確認した。よかった、一人だけ。一人なら何とかなる。そう思いながら、手まさぐりで枝を探した。あった、枝を掴む。


「落ち着いて!私は、あなたの味方!」


少女が私が攻撃しようとしたことに見かねて、声を張り上げた。私は、驚いて少女に顔を向けた。真剣そうな顔だった。少女が話したいことがあるというので、聞くことにした。


「私は、あなたと同じ魔法族の者なの。同族の者が、何やら悪さをしようとしていたらしいから、駆けつけてみたら、この通り。まぁ、非魔法族に魔法族が混じって生活している何て驚いたけどね。あぁ、あの男は、こちらで何とかするから安心して。あと・・・・あなたも今思ったのでしょうけど、非魔法族は、魔法族をひどく嫌っている。自分が魔法族であると知ってしまった以上、そのコミュニティにいることが難しくなるんじゃない?魔法族が罵倒されているのを、自分のことだと感じてしまうのじゃないかなと思うの」


ふと学校でのことを思い出す。非魔法族にとって魔法族は、差別の対象、敵、恐怖の対象。確かにあのなかで過ごすのは大変かも知れない。だけど、過ごせないことはない。


「あとね、あなたの魔法は、すごい力を秘めている。こんなところで燻る様な才能ではないと思うのと・・・さっきのあなたの力は、切羽詰まって暴発してしまったモノ。次は、もっと簡単に暴発するわ。回りくどいことはもう言わないわ、あなたの力をコントロールできるように絶対する。だから、私と来てほしい。家族に説得しないといけなくなるけど」


それを聞いてため息が出る。そんなの、最初から私には拒否権がないと言っているようなものじゃないか。暴発したら、周りの人に危害が及ぶし、抹殺対象となってしまう。


「私には、家族もいるし・・と言ってもおばあちゃんだけだけど、あと!学校のこともある。確かに危害が周りに及ぶかも知れないけど、私は今までの生活を捨てられない」


確かに言い切った。だけど・・・・目を瞑る。脳裏に先ほどの出来事と、夢のことがよぎる。


「だけど、だけど。おばあちゃんや周りの人には危害を加えたくないし、魔法族が本当に周りが言うほど悪い人たちなのか、私自身の目で確かめたい。あと、私自身について少し興味が出てきたの。なぜ、私が魔法が使えるのかとか、知れたらいいなって。だから、乗ったわ!あなたの提案に!」


私は、言い切った。私はもっと自分のことを知らないといけないのかも知れない。いや、知らなくてはいけない、魔法の押さえ方も、私自身のことも、あの夢と声の正体を。その気持ちが、今までの生活を捨てても成さなければならないと思った。目の前の少女は、にっこりと笑った。なんだか嬉しそうだ。


「ありがとう。そういえば、自己紹介がまだだったわね。私は、フィーナ、18歳よ。よろしく!」

「18歳!?私より1歳年上なんだ。私の名前・・・私はアイラ=デンゼル、よろしく!フィーナ!」


私とフィーナの物語が、始まった。私たちの歯車は今、動き出そうとしていた。





人物めちゃ軽紹介

アイラ=デンゼル・・・17歳、高校二年生。非魔法族だと思っていたが、実は魔法                族だった子。


フィーナ・・・魔法族の女の子。18歳。同族が悪さしてるから見に来たら、なんかすごいのいた。


フィーナといた女・・・フィーナの仲間。魔法族。


下衆な男・・・・ただの下衆。再登場するかも、なーんてね








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る