ベスト・ルームメイト
鰹 あるすとろ
第1話「五義」
――真っ直ぐに、生きる。
それだけをモットーに、俺こと「
誰に言われたわけでもない。
漠然と「自分はそういう人間なのだ」と、自分自身で規定していた。
そんな思いと共に、俺は今日も街中へと繰り出していたわけだが。
「ねぇ彼女、暇してる?これから遊び行かん?どこ住み?てか
「ちょっと、やめ……!」
「んなこと言って……オレに、勝てると思ってる?」
散策を始めて早々、看過できない出来事を目撃する。
能力を盾に相手を脅す不良と、それを迷惑がる女性。
そんな光景は、ここ最近ではどこの街でも当たり前に見受けられるものだった。
――だがそれは、自分がなにより許せないもの。
だから、たまらずに俺は彼らに向けて叫ぶ。
「そこの不良達!手を離せ!」
「ンだてめオイ!邪魔すんなや!」
その制止に歯向かうように、その手から「炎」を発する不良。
……なるほど、あれが彼の能力。
無から炎を生じさせ、それを自在に操る。
便利で、強力で、彼のような者を増長させるには充分すぎる力だ。
しかし、言って聞かないのなら仕方ない。
「離さないというのなら……」
俺は背中の包みから竹刀を取り出し、手に構える。
この竹刀は、特注したカーボン製のものだ。
竹刀、とはいうものの、竹製では劣化や耐久性に不安が残る。
俺は幼少期よりこの剣と共に過ごしてきた、謂わば相棒だ。
「な、なんだよおい!武器とか反則だろ!」
「火を出す奴が何をいうか」
不良の狼狽に構うことなく、姿勢を低くする。
狙うは一人、女性の腕を掴んでいる男だ。
「おっと、手ェ出すなよ……向かってきたら、この女を盾にするぜ」
「い、いやぁ、やめて!」
なんたる卑劣。
人質を取り、あまつさえ盾にするなど。
このような悪辣な輩には、増々油断などいらないとみえる。
このまま、正々堂々と近接戦闘に持ち込もうと思ったがそれは撤回しよう。
悪党相手には、それ相応の戦い方というものがある。
即ち、「力」を使う。
「――剣よ、
俺の声に、竹刀がその輝きでもって答える。
その刀身は青白く発光し、俺の足元から剣の切っ先にかけて、光の奔流が嵐の如く巻き起こった。
やがてそれは収束し、巨大な刃の形を成す。
小悪党相手には過ぎた技だが……遠慮は無用。
俺の絶技を、必殺の一撃を。
その一太刀を、奴の腐りきった性根に見舞う。
「壱の剣――」
振り翳すは、光の一刀。
輝くは、
「――
俺がそれを振り抜いた瞬間。
――光を纏った竹刀から斬撃が、飛翔する。
それはまるで、燕のように。
空を舞い、風を斬り。
獲物の首元へと目掛け、ただひたすらに、真っ直ぐに飛翔する。
「馬鹿が、
対して、相手は炎の壁を展開した。
――否、炎と呼ぶにはそれは苛烈に過ぎる。
内外を全てを灼き尽くすほどの炎熱により隔絶する、煉獄の顕現。
彼らをただの不良と切って捨てたことは、誤りだったかもしれない。
この相手は、自分よりも遥かに高位の力を持っている……!
「だが」
だが。
それが防御機能としてのみ作用しているのなら、話は別だ。
飛翔する斬撃、その光波は、真っ直ぐに相手に向かい直進してゆく。
その軌道に、狂いはない。
真っ直ぐに……炎熱の障壁の只中へと、接近し着弾する。
「馬鹿がァ!そんななまっちょろい――」
不良が勝ち誇る。
だが――そのとき。
「技、で……!?」
炎の渦巻く障壁の内部。
外界から隔絶された安全領域。
――そこに、斬撃が現れる。
まるで、すり抜けたかのように。
それは何の抵抗を受けることもなく飛翔し続け、ついに標的のその眼前に迫った。
「な、人質ごと!?」
「きゃあぁぁ!?」
驚愕の声と、人質の悲鳴。
だが俺は、それに構うことなく事の顛末を見守る。
何故なら、知っていたからだ。
「な――ぐ、ぁぁ!?」
「!、え?え……なんとも……?」
――斬撃が、人質をすり抜けて悪党だけを切り裂くことを。
光の刃をもろに受けた不良は、その衝撃に耐えきれずに後方へと大きく吹き飛ばされる。
それと同時に炎の障壁は瞬時に霧散。
不良はそのまま壁に打ち付けられて、痛みにもんどりうつ。
「う、う……なんで、攻撃が……」
「それが、俺の力だ」
「お前の……?」
何故、と頭を抱える不良に、俺は素直に能力を開示する。
隠す理由もない。
経緯はどうであれ、全力で相対した相手に決め手の効果を教えないのはアンフェアというものだろう。
「俺の力は、「一意専心」。俺がお前に攻撃を当てようと誓ったなら、間にどんな障害があろうとお前だけを斬り伏せる。それが俺の信念で、決定だ」
「んなの……反、則……がくり」
不良は文句を言いながら、その意識を手放す。
……実際、反則と呼べるほど強い力じゃない。
相手に攻撃を通すことに関しては特化した強さを持っているが、そのぶん防御に関してはまったくの門外漢。
そこいらの子供に石を投げられたって防げやしないのだ。
先程だって、我が身に構わず炎で反撃されていたら、こう簡単にはいかなかっただろう。
もちろん、相手が保身に走ることを看破していたからこそ、数ある技の中から「飛燕抜刀」を選んだわけだが。
そこまで考えて。
「……おっと、そうだ。大丈夫ですか?」
俺は、不良に捕まっていた女性へと駆け寄る。
厄介な不良は倒したが、肝心の彼女のことをすっかり失念していた。
「は、はい……なんとか……」
女性は地面にへたり込んでいて、立ち上がるのもやっとなようだった。
「どうぞ、掴まってください」
俺は手を差し伸べる。
するとその手を彼女は掴み、力を借りて立ち上がる。
――そう思ったのだが。
「……いえいえ!捕まるのは貴方なので!」
「は?」
瞬間。
「――よっしゃ確保ォ!」
「!?」
頭に、後ろから何かを被せられる。
これは、なんだ。
ネットのような、白い網目の……、
「は、え!?虫あみ!?ちょっとなにを!?」
突然、背後から虫あみを被せられた。
しかも、なぜか手足の自由が効かない。
……能力か!?
そしてそれと同時に、ドタドタと足音が聞こえ……俺は複数人の黒服に、神輿のように担がれて運ばれる。
「いや!え!?下ろして!俺は―――」
そして、なぜか意識も遠のき。
俺――「
◇
「ん……ん、ん?」
朦朧とする意識の中。
俺は割れんばかりの頭痛と共に、目を覚ました。
目を開くと、そこは白い壁の部屋に、ベージュのカーテンで区切られた区画のなかだった。
ベッドの横には手すりがついていて、隣の棚には俺がもっていた手荷物が置かれている。
……まるで、学校の保健室のようだ。
そう考えて……急に、意識が現実に引き戻される。
「ここはどこだ!?」
叫びと共に、思わず飛び起きる。
靴もベッドの前にちょこんと並べられていて、俺はそれに足を通してカーテンを勢いよく開けた。
すると。
「あ、さっきはどうも!」
「……」
不良に絡まれていた女性が、ソファでお茶をすすりながら、手を振っていた。
……忘れもしない。
俺をここに誘拐したのは、この人とその仲間だ。
「お前、俺を攫ってどうするつもりだ!まさかあの不良も仕込みか!?」
「えぇもちろん!連行予定の不良をあえて呼び出して、捕まってました!わかりませんでした?」
女はへらへら、いけしゃあしゃあとこちらを煽る。
……なんなんだこいつ!
「俺を、元いた場所に帰せ!誘拐なんて、法的にも許されないぞ犯罪者!」
こんな得体のしれないところ、一秒だって居たくない。早く戻って、散策もといパトロールを再開しなくては。
……そう思っていたのだが。
「あぁ、帰れませんよ?ここ、政府の施設。法的に問題なし。能力使って日頃無許可で暴れてた貴方を我々が保護。Pardon?」
「え」
政府……?
え、国家権力?
思わず血の気が引く。
そう、そうだ。
俺は毎日街をパトロールし、悪人を見つけては竹刀で打ちのめしてきた。
だが、それは別に国に許可取ったわけでもなんでもなく、自分の信念に基づいた正義の行動としてやってきたことだ。
……当然、警察なんかに見つかれば捕まる。
もしこの人らが本当に国家公務員なのだとしたら、俺はもう現行犯もいいところ。
そうなると、正々堂々、品行方正をモットーとする俺が取るべき選択は……!
◇
「申し訳ございませんでした……何卒、ご勘弁を……」
「ちょっと!?土下座は困りますって、脅かしただけで別に逮捕とかそういう話じゃないんで!」
俺は人生のなかでもっとも美しい土下座を披露する。
正義に則った行為だったとはいえ、正規の手順を取らない蛮行であったことは紛れもない事実だ。
ならば、自分にできることは彼女らの指示に従い、贖罪をすることに他ならない……!
「ほんと大丈夫なんで!迷惑をかけてたんじゃなく人助けをしてたっていうのは今回のおとり捜査で判明したわけですから、とりあえず座ってください……」
座れ、との指示。
それに俺は大人しく従おうとするが……、
「はい……ん、おとり……?」
引っかかるワードがあった。
そうだ、そうじゃないか!
「おとり捜査とはなんと卑怯な!俺をここに連行するなら、真っ向から声をかけてくれればよかったのに!」
「めんどくさ……」
俺の激昂に、女性はなにやら疲れたような表情をみせる。
騙し討ちとは、もっとも正義に悖る行為じゃないか全く。
政府の人間なら、正々堂々と恥ずかしくないやり方をしてほしかったものだ。
……そう俺が憤るなか。
おずおずと、彼女が手を挙げる。
「あの、そろそろ説明を……」
「あ、どうぞ」
おっといけない。
話の腰をへし折りまくってしまった。
「こほん……えー、貴方が今いるここは、政府が設立した能力者養成校「
「保護って、誘拐の間違いでは?」
「手荒な真似をしたのはごめんなさい。けど、貴方が本当に正義に沿って行動をしてるって保証はなかったから……」
それは、そうか。
もしかしたら、正義の味方面で裏では人に迷惑を掛けているような奴かも知れないわけだし、調査は必要か。
そう思うと、卑怯とまで言ってしまったのは乱暴な物言いだったかもと反省する。
「それでですね、貴方にはここに入学してほしいんです。その、色々思うところはあるだろうし、私達のことが許せないみたいなことも……」
「入学します。書類とか必要なものはあります?あと実家から持ってきたい荷物が」
「決断早!?」
反省の意もこめ即断即決したのだが、かえって動揺されてしまった。
……彼女らからしたら、もっとゴネる想定だったのか。
「じゃあその、これからよろしくね進くん。……まだ名乗ってませんね、私はここの教師もしてる「
「はい、よろしくお願いします
「これから進くんには寮に住んでもらうので。相部屋になっちゃうけど、大丈夫です?」
「問題ないです」
「よかった、そしたら明日部屋に荷物送るようにしておくから、今日のところはそのまま寝てもらって。服はこれ」
そういうと、先生は袋を手渡してくる。
中身は換えの衣服一式だ。
「はい、部屋番号は……」
「あ、この紙に書いてあるよ」
手渡された紙には、5と見間違えそうな荒い字で202号室と書かれている。
しかし見間違わないように、下に斜線まで引かれてる到れり尽くせりさ。
俺はそれを頼りに、これから暮らす相部屋へと向かうことにしたのだった。
◇◇◇
「202……ここか」
しばらく廊下を行ったり来たりして、俺はようやく目当ての202号室にたどり着く。
これから共に学生生活を過ごすルームメイトのいる部屋だ、粗相のないようにせねば。
こういうのは、第一印象が大事だ。
「失礼する、今日から相部屋だと言われたのだが……」
ノックをしつつ、声をかける。
そうすると、部屋の中から返事が響いた。
――が。
「は〜い……」
やたら元気のない声。
がたがたと、何かを踏み荒らしているような音。
そしてなにより……、
(随分高い声の男子だな……?)
数多の疑問が、頭上に?マークを作り出す。
相部屋というのだから、当然男子同士だろうからその心配はないが。
しかしこの物音……もしかすると。
俺がそんな疑念を抱きかけているなか。
ようやっと、部屋の扉が開く。
そして、そこに姿を表したのは。
「な――」
「え、相部屋……?」
よれよれで、袖の余った制服をきた、紫紺の長髪をした少女。
俺はあまりのことにしばらく、絶句しかできないでいた。
――これが、俺こと「
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