第76話 光の無い

「……影に隠れる一族だと……

 闇に紛れ誰にも気付かれる事無く、相手を殺す暗殺族セムだと……

 とてもそうは思えん」


そんにゃ声がわたしさえ見切れにゃい何処かから聞こえていて。


「教えてやろう。

 拙者を加護する神はズルワーン。

 虚無の神と言われる。

 虚無から全てを産み出した神とも」


……拙者?

この声の調子、にゃんだか聞いたことがある気がするわ。


黒いマントに身を包んだ輩は、周囲をキョキョロするけど。

にゃにも見つけられにゃい。

慌てて筒から更に吹き矢を吹き出す。

だけど、その矢も中空で何処かへと消えてしまう。


「影に隠れる暗殺族セムよ。

 影とは暗闇がある状態なのでは無い。

 光が無い状態なのだ」


何処かへと消えた吹き矢が空中から現れ、ポトポトと下へ落ちていく。


「虚無の神、ズルワーン様の前では。

 こんな矢など消え失せる。

 月明りさえ残さない。 

 光の全てが失われるのだ」


ズルワーン様。

聞き覚えが有る。

確か一週間、曜日のにゃかに。

土曜日がズルワーンの日と言うんじゃなかったかしら。

土曜と言えば土星。

サターン、悪魔の名前を持つ星。

昔から凶星と言われていた星だったと思うわよ。



暗殺族セムと呼ばれた男は怯えている。

その顔はマントにすっぽり覆われてみえにゃいのだけど。

挙動に現れてるの。

手足が震えて、まったく落ち着きがにゃいわよ。

小型の剣を振り回すの。


「おのれーっ!

 何処に居る?

 隠れていないで出て来い。

 卑怯モノめ」


その言葉、そっくり返すわよ。

さっきまで隠れて、護衛の人をいたぶっていたのはあにゃたでしょ。


「むーっ、これが暗殺族セムとは……

 納得いかん。

 拙者、少しばかり憧れていたと言うのに。

 二度と闇に潜む一族などと名乗ってくれるなよ」


やっぱりこの男性の声、知ってる声だわ。


「闇に潜むとは。

 影に隠れるとは。

 こういう事なのだ」


そう声が言って。


めくらめっぽう、デタラメに剣を振り回していたマントの男。

その後ろから急に腕が伸び、男の首を締め上げる。


「あ……ぐぁ……あぁぁぁぁ……バカな……」


とつぶやいて、男が意識を失い倒れる。


その後ろに立つ人影。

黒い布で顔を隠していて、その布を取り去る。

そこに現れたのはスポーツマン風に髪を短く刈った男の人。

護衛団3番隊隊長。

イルファンさんだった。

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