第66話 皇帝の軍隊

アズダハーグと呼ばれていた少年。

少し線の細い雰囲気。

茶褐色の髪をおかっぱ風に切り揃えているの。


「ありがと」


水筒を男の人に返して彼は言うわ。


「……アレは一体何だったんだ?

 大量のサソリのバケモノ……」


「……皇子。

 あれはパピルザクと言うサソリの魔物ダェーヴァです」

「そんな事は分かってるっつーの。

 皇子が不思議がってんのは、パピルザクが群れて多数襲って来た事だろ。

 知能のねぇ魔物ダェーヴァだってのによ。

 まるで組織みたいに軍勢で襲ってきやがったんだぜ」


「そんな事……

 俺にだって分かるものか!」


戦士たちは黙り込むわ。

そんな二人を見にゃがら皇子様はつぶやく。


「……父上はご無事だろうか?」


「アズダハーグ皇子、大丈夫ですよ。

 我々は後方に居ましたが、皇帝は軍の中央にいました。

 腕の立つ兵たちが周辺を固めていたんです。

 魔物ダェーヴァがいくら数がいても負けはしません」


男の人が少年を安心させるように語りかけるの。


「なんだい、それじゃ俺が腕が立たねえみたいじゃねぇかよ」

「アタリマエだ。

 走るくらいで音を上げやがって、ダラシ無い」


男たちは言い争ってるけど、物騒にゃフンイキじゃにゃいわ。

皇子を安心させるための軽口ね。 


「アズダハーグ様。

 俺らは後方にいたからよ。

 何が起きたんだかよく分からなかったし。

 とりあえず、緊急事態だってんで、アンタを連れてエスファハーン方向へ逃げた。

 だけどよ、本隊は皇帝の軍隊だぜ。

 今頃、もう魔物ダェーヴァどもをぶっ倒してるさ」


「オマエ、口の利き方がなって無いぞ」

「俺はタダの兵隊だっての。

 丁寧な口の利き方まで知るもんかよ」


ははぁ。

エスファハーンの街に入る時、門番は言っていたわ。

ザッハーク皇帝の軍隊は昨日街を出て行ったと。


その後でサソリの魔物ダェーヴァに襲われたのね。

多数のパピルザク。

それってば、少し覚えがあるわ。


あの吹き矢と匂いのする袋。

小型船ジャーエヒに刺さっていた矢。

それにすさまじいニオイのする袋がくっついてたのよ。

そのニオイにつられてやたらめったらたくさんのパピルザクが小型船ジャーエヒを追って来た。


イルファン隊長は吹き矢を砂漠の暗殺族セムのモノじゃにゃいかと言っていたわね。

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