第55話 商人見習い

エヘヘへ。

周囲が楽しい雰囲気にゃものだから。

勢いに乗ってやり過ぎちゃった。


周りに集まった人たちが小さな黒猫を見ている。

わたしは人々の視線を避けて、エステルちゃんの足元に隠れるの。


「みゃーったらいつの間にあんな芸覚えたの?」

「男爵、やるじゃない」


ステュティラちゃんは何故か見てる人たちにドヤ顔。

別にステュティラちゃんに芸を教わったりしてにゃいのに。



「みゃーちゃん、可愛かったよ」


エラティ隊長まで、話かけてくる。

いやーん、恥ずかしいわ。

わたし調子に乗っちゃったかしら。

エステルちゃんの両足の間に顔を隠す私にゃのよ。


「男爵!

 おかげで人集まっタ。

 助かったネ」


ファオランさんは客引きを続けにゃがら、こちらにウインク。

わたしも尻尾を一振りして返しておく。



「お嬢様、ホントに元気そうで良かったわ。

 すいません、皆さま。

 あちらにウチの天幕があります。

 日陰で冷たいお茶でも飲んで行ってください」


シンイーさんが言って、わたしたちは移動しようとしたのだけど。



「ファオラン!」


男の人の叫び声で足を止める。

少し威厳のある男の人がファオランさんに近付いて。


にゃにするの?

かにゃーりコワイ雰囲気よ。


「このバカ娘!」


男の人はファオランさんを平手打ちで張り倒しちゃったの!



「旦那様!

 お止めください」


とシンイーさんが言う。

という事はこの男性がファオランさんのお父さん?


「ちょっと、オジサンなにすんのよ!」


とステュティラちゃんが出ていって。


「旦那様、お怒りでしょうが。

 人前です。

 落ち着いてください」


シンイーさんも男性に縋りつく。


ここには集まっちゃったお客さんもいるし、店員の人たちも居る。

周囲の目が集まってるのを感じた男性は少しヒートダウンね。


「ファオラン、どうしてもペルーニャへの商旅に着いていきたい、と言っていたな。

 私が許さんと言ったらキサマは何と言った?」


ゆっくりした口調。

だけど厳しい声で語りかけるの。

ファオランさんは下を向いちゃってるわね。


「覚えていないか?

 段商会の跡取り娘としてでは無く、一人の商人見習いとして着いていく。

 見習いとして周りの人たちの言うことを聞いて、勝手な行動はしない。

 オマエはそう言ったのでは無かったか!」

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