第54話 キャット回転

シンイーさんに案内されてわたしたちは移動している。


ファオランさんたちの商人グループは大分多いらしい。

10台を超える馬車。

人間も30人以上いるそうよ。

ファオラン、そんな大きな商会の社長の娘さんだったのね。


市場の奥の方に行くと見えて来た。

台をいくつも出して、商品をにゃらべてる。

赤いチャイニャドレスに揃えた娘さんたちが明るく声を出してるの。


「いらっしゃいマセー!」


「どれもチャイニャの特産品。

 良い品ヨ。

 お客さん、ここで買った方がゼッタイお得ヨ」


多分ファオランさんと同じ揃いのドレス。

制服にしてるのね。

確かに目立っていいカンジ。

男の人が気を取られてついついにゃにか買わされてるみたい。


「ワタシのアイデアね。

 揃いのチィニャドレス着たら、絶対オトコ客を引き付けられるッテ」


ファオランさんが説明してる。

そうにゃのね。

確かに、護衛団の装備課でファオランさんが売り子やってた時と同じカンジね。



「お嬢様、戻ってらしたんですね」


「良かった、ファオラン様」


「ご無事でしたか、お嬢様」


働いてる男性、女性に声をかけられるファオランさん。


「心配かけチャッタ?

 ゴメンネ、みんな」


明るく手を振るファオランさん。

何故か、その場でバク転をしてみせる。


「ワタシは無事。

 元気ヨ」


「シンイー。

 ワタシ少し客引き手伝ってく。

 みんなを天幕テントに連れて行って。

 お茶くらい出してあげてヨ」


そう言うとファオランさんは声を跳ね上げる。


「サァーーー。いらっしゃいマセ。いらっしゃいマセ。

 チィニャでも五本の指に入るジュアン商会の売り場はこっちダヨ。

 東方の絹もあれば、珍品も勢ぞろい。

 見るだけでも見てってネ」


そんな呼び込み文句を叫びにゃがら。

ファオランさんは身軽に前方宙返りやバク転をして見せる。


まわりのお客さんたちも見入ってるわ。

ファオランさんこそがサーカスの少女みたいね。


そういえば、砂の海の小型船ニャビールジャーエヒの中でリリーちゃんがファオランさんの動きをマネしていて。

カワイかったわー。


わたしはエステルちゃんの腕を抜け出して、ファオランさんの側へ。

彼女の動きをマネしてみる。


さあいらっしゃいと手を叩いてる所は招き猫のポーズね。

華麗に前転をするところはわたしも飛び跳ねて、前に向かって宙返り。

側転だってできちゃうの。


バク転はさすがにどうかしら。

猫が後方宙返りしたら不自然過ぎるかしらね。


わたしは近くにあった支柱に向かってジャンプ。

三角跳びの要領でさらに上へと。

そこで身を翻して、キャット空中三回転。

地面に降り立つ黒猫にゃのよ。


おおおおーーっ!

と拍手と歓声が響くわ。


いつの間にか見物客が集まっちゃったみたい。


「あの娘スゲェな!」

「なに言ってんのよ!

 スゴかったのはあの猫ちゃんよ」


「あの娘がスカートで動くもんだから、

 足が見えてエヘヘへ~」

「バカ!

 ネコちゃーん、可愛かったわよ~」


「ああ、犬と違って猫は芸を覚えないって聞くんだがな。

 大したもんだ」

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