第20話 装備課

「イラッシャイませ」


少女が明るく声を張り上げる。

迷子の少女、ファオランさん。


えへへー、なんて美少女の声にニヤけてる護衛団の戦士の人。



「フン、どうやら商人の娘ってのはウソじゃないようだな。

 接客が手慣れてやがるぜ」


「ナシール、疑ってたのか。

 彼女にウソをつく理由は無いだろ」


「あのなー、アザム団長。

 アンタは人が良すぎんだよ。

 人間なんてのは、大した理由が無くても人を騙すもんなんだ」


アザム団長とナシール副団長。

クマみたいな大男と細身の男性ね。


わたしはエステルちゃんと一緒。

今日はエステルちゃん午前のお勉強と槍の鍛錬で終わり。

まだ見にゃらいだからね。


わたしを連れて、ファオランさんの様子を見に来たの。


「ファオランさんー。

 この子がみゃーだよ。

 ステュティラちゃんは男爵って呼ぶけど」


「ワーオ。

 ホント、真っ黒な猫。

 でも確かにカワイイだけじゃなくて気品があるヨ。

 男爵って言うのもニアッテル」


ファオランさんがわたしの頭をにゃでる。

そのまま、下の方に手を伸ばしてわたしの下あごをくすぐる。

やっぱり猫を飼ってるだけに、にゃれてるのね。

柔らかくて、優しい手つき。


あまりエステルちゃんやヘレーナさん以外に馴れ馴れしくされるの好きじゃにゃいんだけど。

ここはガマンしてあげようじゃにゃい。


「へー、護衛団の中にお店なんてあったのね」

「うん。装備課って言うんだって。

 剣や弓矢、防具とか、護衛団の必要品を売ってるの。

 テキトウな商店で買うより安く買えるらしいよ」


関心してるのはステュティラちゃん。

ヤジ馬に着いて来たのね。



ファオランさんは護衛団に預けられてる。

親御さんとはぐれたチャイニャ国の少女。

トーヤー隊長の頼みでこの建物に泊まってるの。


「……だからってなんでウチがタダ飯食わせてやらなきゃいけない?

 泊めてやるのは構わんから、ここで働かせとけ」


そんにゃナシール副団長の一声で装備課で働いてるのね。



ナシール副団長はファオランさんに声をかけてる。


「おいっ、お前の親、チャイニャの商人なんだよな。

 武具なんかも扱ってるか?」


「はいっ。

 シルクや布が中心ですけど……

 槍とか青龍刀、鎧も売ってます」


ナシールさんは長い黒髪。

細身の男の人だけど、目は吊り上がって、迫力がある。

キツイ眼つきで見られて、ファオランさんは少しビクっとしてるわ。


「チャイニャの鎧は変にハデで好かん。

 しかし槍のデキは良いのがある。

 これも縁だ。

 この装備課に槍を安く融通するようにお前の親に言っとけ」


ナシールさん……

やり手なんだか、セコイんだか、分からにゃいわね。

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