第82話 ホントウに?

【危機感知】

【危機感知】

【危険:精神攻撃】

【危険度:上】


そんな文字がわたしの視界の片隅に浮かんでいるのだけど。

意味が理解出来にゃい。

わたしの頭のにゃかに入ってこにゃい。


ジャマにゃのよ。

わたしは今大事にゃコトを考えてるの。


わたしは。

私は。


私は自分の家に居る。

私とあの人が住む、私たちの家。

ローンで買ったのよね。

私に子供が出来る事になって、それまで共働きで貯めてきたお金をつぎ込んで。


なのに後でバブルが弾けて、地価が下がってしまって。

あの人は言っていたわ。


バブルが弾けてから買えば良かったな。


そんなの無理よ。

分かっているでしょう。

この家で過ごしてきた時間。


子供が産まれて、あの人は仕事が忙しくて。

それでも無理をして早くに帰ってきてくれた。


私も余裕が無くて苛々したりもしてしまったけど。

二人で笑い合えばすぐ忘れられた。


この家にはそんな大切な時間がいっぱい詰まっている。

お金には替えられない物。


そして子供たちは大きくなって巣立って行って。

孫も生まれて、たまに顔を見せに来てくれる。


本当はもっと孫に逢いたい。

出来れば一緒に暮らしたい。

けど駄目よ。


私はもう年寄り。

自分の若い頃を思い返せば、どんなに苦しくても自分たちだけでやり遂げたかった。

両親の事はもちろん好きだし、たまに遊びには行くけれど。

一緒に住んで力を貸して等欲しく無い。

そういう物よ。


私は、私たちは遠くから見守るだけで良いんだわ。


寂しくなんてない。

家にはあの人も居るし、猫の源五郎丸だっている。



—ホントウに? ―



誰かが尋ねる。


ホントウよ。

あの人が居れば……


―ウソツキ!

あの人なんてもういないじゃない。―



……!……

私の瞳から温かいナニカがこぼれる。

溢れ出して止まらない。


そうだ。

あの人はもういないんだった。


なぜ、何故私より先に居なくなってしまったの?

私をずっと守ってくれる、って言ってたじゃないの。


駄目よ。

あの人は天命を終えたの。

私も直に……

そうしたらまた一緒よ。


寂しいけど我慢しましょう。

それまで私には源五郎丸がいるわ。

私の膝の上に乗る、温かくて柔らかい生き物。



―ウソツキ!―



私の瞳からはドンドンナニカがこぼれ落ちる。

頬を伝い首から胸元まで濡れてしまう。


温かくて柔らかい猫。

源五郎丸は冷たくて固いモノに変っていた。



私の瞳から溢れ出す。

止まらないナニカが辺り一面を覆ってしまう。

それは私の涙。

暗く、淋しい、辛い気持ちが形になったモノ。



【危険:精神攻撃】

【危険度:上】

【危険:精神攻撃】

【危険度:上】


そんな文字は私の目には入りはしない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る