第2話 錬金術師パラケウロロフス


「ひょーひょっひょひょっ!」


 怪しげな爺の笑い声が響き渡る。街灯の上からそれは聞こえてきたものだ。思わずそちらを見やってしまう。そこに居たのはデカい杖と謎の液体の入ったフラスコを持ったローブ姿の老人だった。

 

「良い素材がそろっておるわい! 組織に渡すには惜しい惜しい!」

「なんだあいつ……」

「そぉれ!」


 謎の液体をペデストリアンデッキに向かって振りかける。


「汚ねぇ!?」

「ほっほっほっ、誰の薬が汚いって?」

「薬ぃ? 俺はヤクはやらねぇんだよクソジジイ!」

「ほほっ、年上への言葉の使い方がなっておらんの。聞いて驚け、我が名は大錬金術師パラケウロロフス! あのパラケウロロフスじゃ!」

「なんだその恐竜みたいな名前」

「賢者の石の力を見よー!!」

「人の話を聞けぇ!?」


 杖にはめ込まれた宝石が光り輝きだす。北千住駅前のペデストリアンデッキが怪しく輝く。その光は駅や、千住ミルディスにまで広がって行く。駅前の大型ビジョンに爺の顔が映し出される。


『これより! 真の喧嘩トーナメントを開催する! 賞品は賢者の石! さあ勝ち上がって来い! 何でもありのデストーナメントをな!』


 辺りはすっかり異世界と化していた。のたくるつた、岩々、ひび割れる地面、謎の液体は俺を汚したままだった。観客はどこへ行った? 対戦相手は? 俺の賞金は? 

 そんな時、目の前に粘液の塊が現れる。プルプル震えてなんだこれ? それは目の前にバッと広がり、俺を喰らおうとしたのだ。俺は最期まで疑問符を頭に抱いたまま――

 走馬灯が過る。碌な人生じゃなかった。親には捨てられ、孤児院じゃいじめられた。いじめられなくなるためにはいじめる側に回るしかなかった。そんなの言い訳?    

 当事者じゃなきゃそんな事も言える。俺はとにかく必死だった。いつの間にか暴走族なんて立場に居た。短い人生だった。あゝ神様、どうかもうワンチャン――


 そう思った時だった。


「動くと死ぬよ?」


 動かないと、の間違いでなくて? そう思った瞬間であった。

 空から女の子が降って来た。

 親方ぁ!?

 黒い翼を携えて、赤いゴシックロリータに身を包んだ少女が粘液を踏みつぶした。拡散した粘液は動かなくなる。地面に軽いクレーターが出来ていた。

 俺は少女の言いつけを守り一歩も動いていなかった。褒めて欲しい。


「あなた、名前は?」

「……美空ミヤビ」

「ミヤビ、あんたは私のストックよ。いい?」

「ストック?」

「私、吸血鬼なの。血の補給、必要なの」

「血のストック……?」

「yes」


 会話は切り上げられ、俺は襟首を掴まれる。すごい膂力りょりょくだった。俺は勢いよく振り回される。向かう先は。


「千住ミルディス!?」

「今じゃ此処は異界ダンジョン『キタセンジュ』。その最上階に賢者の石はある。それが私は欲しい」

「俺は一千万円と平穏が欲しい……」

「じゃあ利害は一致したわね。これが解決すれば両方叶うわ」

「マジで?」

「大マジ」


 ゴスロリ少女に似合わない言葉に少し笑う。引きずられながら俺は吸血鬼と共に千住ミルディスへと突っ込んだ。


「そういやアンタの名前は?」

「エターナル」

「かっこいいー」

「血を吸うわよ」

「どっちにしろ吸う癖に」

「死ぬまで」

「ごめんなさいでした」

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異界キタセンジュダンジョン~北千住とは名ばかりの魔窟で有象無象が大暴れ、凡人の俺はどうするよ!?~ 亜未田久志 @abky-6102

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