第117話 オレは勇者で君達は聖女③

「まずは、ユミ!君は賢い。そして、甘えん坊だ」

「えっ?賢いのはわかるけど、そうだったの?」


「そうだ。君は、甘えたいんだ。でも、その甘え方がわからない。君は、幼い時に両親を亡くした。それで、両親に甘えることも出来ずに幼少期を過ごした。確かに、おじいは居るが、いつも甘えられる存在ではない。弥生さんはいつから君と居るのかは知らないけど、甘える関係ではない。君は、だから、一人で何もかも解決しようとする。そして、それが出来てしまう。それに経済的に困ることも無い。勉強はいつも一番だったのだろう。そうして、君は他人を知らない内に見下してしまうようになったんだ。他人の心の内が良くわからない。自分本位で考えてしまう。そうだろう、賢い君ならわかっているんだろう?君は、親友の香織にさえ、自分の心を開いてはいないのを」


「なぜ、そんな事が言えるの?私は、香織とは親友よ!香織だけは、私を信じてくれてるわ」


「それは違う。香織だから、君と付き合えるんだ。それが香織の問題でもあるんだが」


「なに、それ?まるで私達は親友じゃないって言ってるのと一緒だよ?」(早乙女)


「そうだ、お前等は、親友じゃない!本当の親友じゃない!」


「何を言ってるの?」(早乙女)

「どういうこと?」(ユミ)


「さっき、お前等がいがみ合う様な事があっただろう?よく、想い出してみろよ」


 ここで想い出してみよう。

『「ユミ、あなた、私達のやり取りを見て、心の中で笑ってたんでしょ?あなたって、昔から、そういう所あるじゃない?自分は、高見の見物みたいな、自分はあなた方とは違うみたいな?どうなのよ、ユミ!」


「・・・・香織、わたしのこと、そんな風に思ってたんだ。そう、香織もそうなんだ」

 ユミは、俯き、悲し気な表情をした。』


「香織は本音を言っただろ?香織は、君を親友と思っているから本音を言ったんだ。対して、お前はどうだ?『そんな風に思ってた、香織もそうなんだ』そんな事を言って、同情を引こうと、悲し気なフリをして見せる。お前、香織は真剣に言ってるのに、なぜ、それに自分も真剣に答えを返そうとしない?」


「わたし・・わたしは、そんな・・なぜ、わたしがフリをしてるって事が言えるの?それは、あなたの憶測でしょう?何も根拠なんか無いじゃないの?」


「そうだ、以前のオレなら、そうだったよ。でもな、オレ等にはもう、魂の絆が出来ちまったんだよ。お前を愛しているオレには、お前の気持ちがわかるんだよ。お前の、ちょっとした仕草で、お前の気持ちがわかるんだよ。だから、そんな感じになるお前を、オレは正したい!お前は賢い、それはお前の長所だ。だったらわかるハズだ。オレの言ってることが。ヒトの心、気持ちを大切に考える、そのやり方と意味を、お前は今まで知らなかった、いや表面的には知ってるのかもしれないが、本当の意味を知っていなかった。知らなくても、与えられ、上手くやってこれたからな。だが、それではダメなんだよ。お前は、ヒトを愛するってことの意味を、オレを愛し、香織を愛することで知って欲しいんだ」


 この時、ユミの心の中に、温かい何かが流れ込んできた。

(これは?これが愛なの?愛って、うさちゃん(ユミのぬいぐるみ)を愛するってことより、もっと深くて、なんか、こう安心できるような優しい感じ?)


 ユミは、知らずと涙を流していた。

「ごめんなさい。わたし、香織に迷惑を掛けちゃったわね。それと、カズくんにも。ごめんなさい!」

 ユミは、自分でも驚く程、素直に、心の内を言葉にした。


「それから、委員長!君は、他人のことを考えすぎだ。今回も、ユミが心にも無い演技をしたにもかかわらず、君はそれを許した。深く追求をしなかった。ユミのそういう甘えをわかっているから許したんだろう。それは、君がずっと委員長をして来たからだ(これ、前にも話したかもしれないが、ユミの前でもう一度だ!)。自分より他人の意見を優先するクセが付きすぎて、君は他人の行いに敏感になり、多数意見を尊重するあまり、自分では違うけどという想いを封印して、他人を許し従う。それが正しいと思い込んでる。ユミの甘えを指摘せず、それを許して、折角言った事も引っ込めて丸く収めようとする。委員長としては優秀だ。しかし、それは教師にとって、そして生徒たちにとってもある意味、都合の良い存在なんだよ。だから、オレの事をみんなが非難した時に、止めることが出来なかった、あの小学校の時に。君は反省をしたって言ったけど、でも、それはやはり難しい事のようだな。ユミへの対応を見て、良くわかったよ。だから、もっと自分を前に出せよ。それが出来たんだろ。オレとのデートの時に、君はそれが出来たんじゃないのか?だからオレと、あの時恋人になれた。だったら、ユミにも出来るはずだ。いいから、ユミと喧嘩してもいいから、言ってやれよ。もっと言ってやれよ!そんなことでダメになるような関係なら、それは親友ではないハズなんだからな(オレが言えた義理ではないのだが、なぜ、こんな事が言えるんだろう?)。そして、どうしても困ったときは、オレに頼れ。いいか、ユミもだぞ!オレに頼ったらいいんだ。そのための勇者なんだからな!」


 温かい波動が、このテーブルを中心に漂った。


 早乙女もユミも心が清められた気がして、そこへ温かいモノが流れてくるのを感じていた。


((私は、愛されてるわ。しあわせ))by早乙女、ユミ

(彼は本当に勇者なのかも)by早乙女

(彼は勇者で私は聖女か、それって、なんかステキ)byユミ


「ありがとう、カズト。イヤな物はイヤ、ダメなモノはダメって言うわね。でも、わたし、好きなモノは好きって、まずはそう言うわ。大好き、カズト!!」


 真っ赤になって、早乙女は言った。


「わ、わたしも、大好きを通り越しちゃって、一周回って、いえ、100周回って、愛してる!!」

 ユミが、彼女なりに、負けじと言った。


「うふふふふ!100周しないと、愛情にならないわけね」(早乙女)

「うん、そうだよ、そのくらい回して、遠心力を効かせるから、純粋な愛の成分を取り出せるの」(ユミ)


「ユミ、お前、賢いけど、なんかユニークすぎるぞ、その解釈。そんな奴だったのか?」

「えっ?それって、褒め言葉?ユニークは、海外の商談では必須だからね」


「「そっちかよ!」」


 こうして、何となく、聖女との絆を作ったカズトだった。


 勇者と聖女の結びつきには、言葉以上のモノがあるのだ。

 しかし、それは、まだこの時、カズトには理解できていなかったのだが、聖女の彼女達には、それぞれの心が、確かに何かを感じていた。


 その後、彼女達はカラオケへ行き、カズトは帰宅して、服をジャージに着替えると、修行へ行った。


 そして、カズトは明け方に帰って寝たのだった。




「パンパカパーーン!!大当たりだよ!!パンパカパーーン!!出た、出た!!パンパカパーーン!!責任取ってね♡パンパカパー」


 ガシッ!ではなく、ポヨン!!


(えっ?)


「あら、やだ!!もう、起きてすぐに?エッチ!でも、よろしくてよ!」


「ええっ!!」


 カズトは、弥生さんの右ムネをワシ掴みにしていたのだった。

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