第107話 甘い!

 まず、信じるに足る根本のモノは何だ?

 それは、オレの存在を認め、オレであることをユルシテいるモノ。

 それは、当然オレ自身だ。


 そして、オレは勇者となり、もうそれはオレの存在そのものとなった。

 そして、オレを勇者たらしめたのはキィの存在だ。


 オレは、キィのことを信じるしかない。

 それは、基本。

 そこは確定してる。

 ならば・・・・・。


「いや、でも、キィの言う事って、現代にも通用する話だろうかなって思ったんだ。ごめん、オレは、君の事を信じている。でも、君の言う全てを鵜呑みにするのと、君を信用するのとは別だと思う。君も、事実ばかりでなく、推測で話している事もあるだろう?違うかな?」

 オナゴとか言ってたし。多分、初代の時の経験則で話しているフシがあるんだよな。


「あはははははは、合格だ!カズトは、初代より頭が良いな!あはははははは!」


「えっと、だったら、どこまでがホントの事になるんだ?って言うか、彼女達は、オレの事をホントに好きなのか?」


「ほとんど、ほぼほぼ、大抵は、まあ、ホントだ!なんなら、確かめてみろ!」

(めんどくさいな。そう思ってくれた方が話が早いんだけど)


「いや、だから・・あれっ?まてよ?オレが勇者になる前から2人にフラれてるんだけど?それって、キィが言うように敵の思惑だったとしたら、オレがまだ勇者でないのに敵は攻撃したって事になるよな?」


「そこだ!そこが君の言った推測の範囲内の話だが、どうやらずいぶん前から、君は狙われていたらしい事がほぼほぼ判明した。だから、僕は、敵の攻撃を既に受けている可能性に言及したのだ」


「ちょっと待てよ。ということは、勇者候補の段階で、既に何らかの妨害工作がされてたってこと?つまり、聖女とオレを仲違いさせるようなことを?っていうか、なぜ敵は、聖女だとわかった?オレが好きな人をなぜ知った?いや、そういう聖女の情報をなぜ知ってる?」


「それから考えられる推論を話す前に、言っておく事、そして考えてもらいたい事がある。敵は、勇者と聖女の関係について良く知っている。知りすぎるほどにな。これがどういう意味か?そして、初代は君を勇者の後継者として、僕に託した。これがどういう意味か?そこから考えたら、今の現状を少しは把握できるかもしれない。さて、コーヒーのお代わりを頂こうか?」


 何やら聖女の話から、ヤバい話になってきた。

 でも、今のオレは、聖女の事で頭と心が一杯だった。

 シオンや早乙女は、敵の攻撃を受けているのか?

 それは、一体、何だ?

 護道は、敵だ。

 しかし、勇者の敵というほどの者ではない。

 だとしたら、何だ?


 オレも苦いコーヒーを全部飲み干すと、キィの分もまとめて、お代わりのコーヒーを入れる。


 たぶん、今のオレの顔は、苦い顔をしている事だろう。


 シオンと早乙女。

 お前等、ホントにオレの事が好きなのか?

 お前等、オレに人前で酷い事を言ったよな?


 なぜ、好きならそんな事が言える?

 あいつ等が聖女だと?

 笑わせるんじゃねーよ!


 そういう気持ちと、キィの言うように、何かの間違いでオレをフッたのだという気持ちが交差して、苦しい。


 オレは、彼女達にどうしたらいいんだ?


 無言で、キィの前にカップを置き、再び対面に座った。


「カズト、。そうすれば、意外と簡単に解決するんじゃないか?」


「えっ?」

 オレの心を読んだのか、キィがアドバイスを?

 つまり、そうか!

 オレは、心が頑なだったのかもな!


 彼女達にもいろいろと言い分もあるだろうし、甘いと思われようが、もう少し軟化した態度で話してみるべきかも?


 そこは勇者の寛容さが必要なのかもしれない。

 いや、勇者だからこそ、懐の深さってモノが必要なのかも。

 頑なな態度は、四角四面な思考に陥る陥穽にもなり得る。

 それは、オレが早乙女に抱いた考えと同じじゃねーか。


 例え、他のヤツを好きになっていたとしても・・そうだよ、アイツ等、騙されているんだよな。あんな奴等を好きになっても、不幸になるはずだ。

 いや、好きになってるんだったら、不幸とは思わないのかも?

 それに、オレが、奴等はゲスいヤツなんだって言っても、信用してくれないよな。


 でも、言うだけ言ってみても?

 オレは、早乙女の出来事を見て、もういいやと思ってしまった。

 シオンが護道を自ら受け入れているのなら仕方がないと思ってしまった。

 でも、それで良いのか、オレ?

 このまま放って置くってのは、彼女達が聖女とかじゃなくても、勇者としてダメなのかも?


 これは、試練なのかもしれない。


「カズト、何をボケっとしてるんだ?早く、砂糖を入れろ!」


「えっ?・・えっと、何?」


「カズト、何を聞いてるんだ?苦ければ、砂糖を入れて甘くするんだよ!?」


「・・そうだな。常識だ」


 オレは、シュガースティックを探し、砂糖をカップに入れ、柄の端にウサギの顔が付いている可愛いマドラーで砂糖をかき混ぜた。


 常識か・・・・。

 砂糖を入れるってか?

 オレに、砂糖になれと・・・・・・。


「うん、美味い!!これは、だ!カズト、君も飲んでみろ!人間がこれを愛する気持ちが分かった気がする」

(お砂糖最高!甘いの最高!500年後の世界、最高!)


 彼女達は、苦みを味わったのだろうか?

 早乙女は泣いていたと、ユミは言ってたな。

 シオンはわからない。


 オレも、砂糖をいれて、甘くなったコーヒーを飲む。


「美味いね、やっぱり」


 キィも、オレの呟きに満足げに頷いた。


 オレは、苦い想いをした。

 だから、彼女達の事は考えない事にした。

 ヤツ等の話を聞いても、他人事だと決めつけた。

 怒りを覚え、イライラしたが、それも忘れようとした。

 逃げたんだ、オレは。


 でも、わかったよ。

 逃げたら、同じなんだよ。

 あの頃と同じ。

 オレの心にケジメをつけるためにも、彼女達にヤツ等の事を誠意を込めて、話してみるべきだろ?


 その結果がどうであれ、勇者のオレは、彼女達に事実を伝えるべきだ。

 だめもとで。

 それに、オレはそうすることで、一歩進める気がする。


「キィ、ありがとうな。常識だったぜ、こんな事は!」

「まったく、君は何かがヌケてるよね。しっかりしてくれよ」


「ああ、もう一つスティックシュガーを入れるか?」

「むっ?甘すぎるのも問題だけど、今は入れとこうか?」


 オレも、もう一つ、入れた。


「甘いね、でも、美味しい」

「そうだな、甘さは人間には必要なんだろ?」


「ああ、


 そうだよ、たぶん、オレの言う事なんか聞く耳を持ってはくれないだろう。

 しかも、フラれた者のヤッカミだと思われるに違いない。


 どう思われようが、何を言われようが、してやるよ!


 聖女とか、もう、関係がねー。

 ヤツ等の言った事を彼女達に伝えずに、そのままにしておくってのは、オレの勇者としての在り方にシコリを残す。

 いや、男として、いや人間としてのあり方の問題だ!

 じいちゃんは、オレにそんな不誠実を教えていない。

 例え、オレの言う事を信じてもらえなくても、事実を伝える。


 オレは、もう、昔の村雨じゃない。

 怖くて逃げた、不登校の村雨じゃーないんだ!


 これは、オレの心の問題だ。

 そう、オレは決意したのだった。




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