第105話 勇者の目的?

 キィは、姿を現した。

 おさげ髪がサイドに二つ、三つ編みに編み込まれて肩下まで垂れ下がるクラシックなヤツがいつもの姿だったのだが。


 彼女?は、前髪のサイドを軽いウエーブで垂らし、後ろの髪をお下げにはしているのだが、左右の肩下に垂れ下がった髪は三つ編みではなく、二つ結びにしていた。

 前よりお姉さんぽくなっていた。


 キィと向かい合わせでテーブルに着く。


「えっと、お前って、女なのか?」

「僕は、君のお気に入りの女の子の姿を取る・・場合が多い」


「げっ!・・えっ?だけど、オレはロリコン趣味では無いぞ!」

「そうか?でも、君の深層意識には、お下げ髪の女の子が居るんだが?」


「あっ!お前、その子の名前を知ってるのに、もって回った言い方をしてるな。まあ、良い。では、まず、勇者の目的を聞かせてくれるか?」


「世界の秩序とその維持に努める事」


「それは、なんとなく知ってた。じゃあ、勇者の敵は何だ?」


「世界の秩序を乱すモノ。人類の敵」


「あのなー、それって、もっと具体的には言えないのか?」


「言えない」


「はあ?お前、言ったよな!教えるって言ったよな!そんなんじゃあ、オレ、勇者辞めるわ!」


「じゃあ、君の記憶を消すか、あるいは、君を殺す」


 オレとキィは、目と目を合わせ、睨み合った。


 しばらくは、そのまま動かず、じっとキィを見つめたが、良く考えたら、コイツは普通の生物ではなく、何かわからないが妖精か、ロボットか、アンドロイドみたいな存在だ。

 いや、本体はカギだ。

 だったら、コイツは、モノなんだから、ジッとしているのは得意だよな。


 そうなら、根比べをしても無意味だ。

 コイツは、ずっとこの体勢が出来るからな。


 オレは、バカらしくなり、それでも何かの情報をコイツから引き出そうと、間を取る事にした。


 オレは目線を切り、立ち上がると、コーヒーを入れに行った。


「おい、キィ!お前、コーヒーを飲めるか?」

「飲めなくもない」

「だったら、飲んでみろ」


 オレは、マグカップを二つ用意する。

 なぜ二つあるのか?


 弥生さんプロデュースの部屋だから、この部屋に入った時に、弥生さんに聞いた。


 弥生さんによると新婚夫婦として全てを揃えた方が来客用とか、将来の同棲にも融通が利くのでってことだった。

 同棲はともかく、来客って、みんな女子とは限らねーぞって思ったけど、なぜか弥生さんがモジモジしてた。


 そして、弥生さんの趣味なのか、インスタントコーヒーの高級そうな物が備えられていたので、それをカップに入れて、常時お湯が使えるようにしているポットからお湯を注ぐ。


 もちろん、砂糖も、ミルクも無しだ。


 キィは、目の前に置かれたコーヒーの匂いを嗅ぎ、一口すする。

 苦い顔をした。


 少し、してやったりと思った。


「なるほど、これがコーヒーか。人間は不思議だ。甘いものが本来の人間としての欲するモノであるハズなのに、なぜか苦いモノ、辛い物を欲っしたりする。人間の脳が危険なモノと判定して、そう感じるようにしているハズの味が、なぜ受け入れられ、逆に好む者が居るのか、それが不思議であった。人間は、そのような嗜好と同様に、平和を愛する一方で平気で殺戮をする。それが同族でもだ。また、苦痛を快楽に思う者も居る。イジメはダメだと知りながら、イジメたりする。恐怖は、怖くて嫌なハズなのに、ホラーな経験を欲したりする。」


 そう言って、キィはオレを見るのではなく、遠い自分の記憶を覗き見るような目で、遠くへ眼差しを向けていた。


 そして、気がついたように、またコーヒーをすすると、再び苦い顔をした。


「人間の欲望には、無限な広がりがある。平和あるいは秩序を守りたいという欲求、戦いあるいは無秩序的なぐちゃぐちゃにしたいという欲求、この二律背反な欲求を同時に持てるのが人間だ。故に、古来より人間は己の欲望に忠実に従い、それぞれ真反対のベクトルを持つ欲求を進歩発展させてきた。そうして、それらは時には反発して大惨事を招くこともあったり、互いに手を取り合い文明の革命的な進歩を促したりした」


「キィ、何が言いたいんだ?」

「勇者の存在も一緒だと思ってな」


「どういう意味だ?」

「勇者の存在理由は、己と真逆な存在と戦う事だ」


「だから、具体的には?」


「なに、簡単な事。勇者が悪と思う者達と戦うってこと」

「それは、つまり、現状では、護道たちの事か?」

「そうかもしれないし、そうでないかもしれない」


「はあ?お前、禅問答みたいになってきたぜ。ハッキリ言えよ!」

「・・・良く考えろ、カズト!君の置かれている今の状況を」


「えっ?・・・まず、オレは、キィに勇者の訓練を受けている」

「そうだな、その事から考えられることって何だ?」


「・・・オレは、まだまだ一人前の勇者になっていないって事」

「・・・それから?」


「・・・そうだな、オレは取り合えず勇者には認定されたって事」

「だとすると、どういう事になる?」


「・・だったら、MPっていう組織は勇者のなり方を知っていないって事になる」

「それから?」


「MPには、初代は居ない。あっ、そうだった。勇者って、一人だけしかなれないんだったよね。だったら、もう初代は死んでいるって事?」


「あるいは、何かの手段でその能力が無くなったのかもしれない・・が、死んでいるんだろうな」


「MPは、なんらかの関わりがあるってこと?」

「まあ、そうだが、しかし、別の組織が関与した可能性もある。それに、自死の可能性もある。とにかく、居ないから、あるいは敵の脅威があるから、MPは勇者を早く作りたかったとも考えられる。MPのことは、そこまでにして、まだあるだろ、今の君の状況については?」


「護道を倒しきれなかったことだな。甘かったよ。まさか審判を抱え込むとはな。一番の悔しい現実は、それだな」

「護道の件か・・・それから、まだあるだろう?」


「何だろう?あとは、ユミと恋人関係になれなかったとか?」


「・・・聖女についての話をしなければいけない時が来ているようだな」

「聖女って、ばあちゃんみたいな人の事?」


「ふふふふふ、そんな年寄ではない。そして、聖女は、君の知っている人だ」

「えっ?オレの記憶は知ってるんだろう?ホントに、もう出会っているのか?」


「ああ、もう出会っている。たぶん、その子たちが、そうだろうよ」

「えっ?たちって言ったよな?今、たちって?」


「まあ、そのくらいは教えといてやるか。モチベーションが上がらないとか言われるのもウザいからね。聖女ってのはね、勇者である君が好きになった人たちの事だよ」


「えええっっっ!!!」



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