第87話 毎晩楽しく・・・

『君の方は、どこまで進んでるんだい?』


『えっ?訊きます?聞きたいです?』

『もちろん、頼むよ、教えて欲しいな』

(うぜーぞ、護道!早く言えや!)


『今晩も、楽しくやっちゃいますよ!だいぶん、慣れて来たみたいで、もう、毎晩激しいですわ!あっはっはっは!ああ、早くやりてーな!』


『いいね~。また、私も混ぜて欲しいな。アハハハハ!』


『まあ、それは、会長がアイツを落としてからっすよ!ぐへへへへへへ!』


『それじゃあ、また報告するよ』


 そう言って、気配が遠くなった。


 誰の事を言ってるんだろう?

 しかし、護道だって?

 僕でも、会長という人の心が一瞬読めた。

 会長って、誰だろ?

 会長、護道の事、ホントは好きじゃないんだな。

 人間関係って難しいな。


 護道が言ってるのは、シオンとの事かな?

 まあ、僕には関係がないや。

 シオンと護道は、もうそういう仲だってのは、何となくわかってるよ。

 相思相愛なんだから、まあ、がんばってください、だ。


 とにかく、アイツ等とは、関わらない。

 勝手にやってろ、だよ。


 そう心の中で呟きながらも、僕は、それでも、何故か、この会話が気になっていた。


 そのため、この後は眠れなかったりした。


 放課後になり、すぐに学校から出て行く。

 野球部には行かない。

 とっても忙しいからね。

 行き先は、あの神社だ。


 あっ!

 工事してる!


 仕方がないか。

 僕は、スマホの解約をしないといけないのを思い出した。


 で、携帯ショップへ行ったら、解約するとお金がかかるって。

 それに本人確認とか、契約者の確認とかの書類がいるとか、もう、無理だってわかったので、あきらめた。

 でも、お金はどうなるんだろう。

 じいちゃんの口座が活きているのを願うのみだ。


 ああ、じいちゃん、ばあちゃん、どこへ行ったんだよ。


 住むとこも無いし、お金も少ししか無い。

 カギがくれる、あんなまずいリンゴとお昼のパンだけで大丈夫かな?


 えっ、ああそうだ。

 このままだと、高校は辞めないといけないよな。

 どうしたらいいんだろ?


 僕は、ある公園のベンチに座った。


『緊急事態だよ!本体、起きて!』

『あー、学校、終わったか、ご苦労さん』


 僕は、100パーセントの藤堂になった。

 そして、10パーセントのヤツの経験や想いを共有した。

 勇者の大切なスキルに、この分身(心)のスキルがある。

 まだ、分身は出来ず、今回使ったのはこの分心というワザ。


 詳しい理論は、わからないけど、脳と心は密接に繋がっている。

 だから、心を休ませると脳も休むという理屈だ。

 普通の人間だと、その反対の事をして眠る。

 つまり、脳が眠たいので眠ると心(魂?スピリット?)も、もちろん眠る。


 能の進化には睡眠を取ることが最も重要だ。

 もちろん、脳への刺激も必要だ。

 僕には時間がないらしい。

 人は脳の細胞が一年で置き換わることが分かっている。

 それを速め、かつ、シナプスを多数生成するには、ノンレム睡眠が必要であり、うんぬん・・・・。

 ってことで、眠ることが必要な訳で、勇者の特訓と睡眠とに極振りして、生活することにしたのだった。


 なので、睡眠中の学校生活では、90%の脳を休ませて、10%だけを使う事にした。

 それぞれの能の領域の10%を使う。

 ただ、必要がある時はそれ以上に使うかもしれないが、できる限り脳を休眠状態にして、脳の変化を促進させる。

 従って、10%の時の僕は、判断力や決断力、理解力、認識力などの各種パラメーターが低くなっている。

 だから、できるだけ他人と関わらず、特に、護道、シオン、早乙女、ユミには関わらないようにと10%に言ってある。

 そして、他人と会話する場合は、普通にマジメに、それでもユーモアを忘れないようにと指示を出していた。


 この技術、分心のスキルは、本来より早めに身につけたものだった。

 学校へ行くってことで特別な配慮だとカギは説明していた。


『カギ、今、どこだ?』

 カギは、カエルの中で、英気を養ってるらしい。


『呼んでくれたら、そこへ行くよ』

『よし、来い、カギ!』


『来てくださいでしょ?』

『いや、もう来なくていいや』


『どうして?』

『来たら来たで、めんどくさいから』


『いいだろ、そっちがその気なら今晩は死のメニューだからな!』

『カギ、君は、僕が人間だって事、忘れてないか?』


『うん?何の事?』

『だから、僕は食べたり、服を着たり、寝たりするんだよ』


『そうだね。だから、リンゴをあげてるだろ?』

『あれ、ちょっとムリなんだけど』


『贅沢になったもんだな、人間は!それなのに、レベルは低いままとか。ちょっと、我がままなんじゃない?』


『ああ、そうか、君は500年前の常識がまだ根強いのか。だったら、現代の常識で対処してくれよ。なんで、そういう事は500年前を基準にしてしまうんだ。おかしいだろ?』

『君、ちょっとばかし勇者の駆け出しになったからって、エラそうだね』


『いや、生きてかなくちゃいけないんだぜ。家もない、カネもない、服もない。今日、クラスのみんなから、臭いって言われたんだよ!』

『はぁ?一日着替えなくて、臭いとか、ないわ~~』


『いや、君のその考えとかがないわ!』


『ちょっと、待って。そうだ、君の恋人の、金持ちのお嬢さんにお金を借りればいいんじゃない?』

『ユミさんか。でもな~、彼女の家とか知らないし』


『知らないの?じゃあ、今から行こうか?』

『えっ?知ってるの?』


『ふん、私を誰だと思ってるワケ?』

『カギでしょ?』


 こうして、ユミさんの所へ行くことになった。



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