第59話 お子ちゃま

 今日は、オリエンテーションの初日だ。

 近くの宿泊施設に泊まって、明日もある。

 クラス単位で課題をしたり、班単位で課題をしたりして、学校やクラスメイトと馴染む機会を作るのがその目的である。


 しかし、オレは、この日、自己紹介だけで帰る事になっていた。

 両親が家にやって来るからだ。


 まずは、昨日のテストが返された。


「藤堂、お前が学年トップだ!よく頑張った」

 オレは、答案用紙を受け取る。


「次、藤原!学年2位だ!よく頑張った」

 背が高く、髪の毛をポニーテールにしてる。

 手足も長く、切れ長の目が印象的な子だ。

 チラッとオレを見る。

 その視線は、オレを敵視しているのでもなく、オレに惚れてるものでもなく、ただ興味のあるという視線だった。


「次、早乙女!学年3位だ!よく頑張った」

 早乙女は、オレの方をチラッと見ると顔を赤らめて、用紙を受け取る。


「次、護道君!学年4位だ!よく頑張った!」


「次、白藤!お前も学年4位だ!よく頑張った」

 護道が紫苑にグータッチを求めるも、紫苑に無視されて、ガッツポーズに切り替えた。

 バカか、アイツは!


 次々に答案用紙が渡された。

 そして、解答や成績の説明が簡単にされて、テストの解説書が渡された。


 明日、似たようなテストがあるらしい。

 そのテストで良い点を取ったら、内申点に反映されるらしい。

 オレには関係ないけど。


 そうして、次に班が決められた。

 このクラスは、女子の方が多い。

 やはり、中学でも女子の方が成績が良かったし、性別とか関係なく、特にこのクラスは成績優先で選ばれるので、自ずとそうなるのだ。


 しかし、なんでこうなるのか?

 班は紫苑と護道が一緒で、その護道の班は、護道以外全員女子。


 そして、オレは、なぜか元田辺中学のヤツ等4人と、あと一人はあの学年2位の藤原と同じ班になった。


「藤堂君ね。香織から話しは聞いてるよ。藤原優美ふじわらゆみ、ユミって呼んでいいよ」

「じゃあ、オレの事もカズトでいいよ」


「それは、香織に悪いから、藤堂でいいかな?」

「・・いいよ」

 女子から、姓の呼び捨ては新鮮な感じだ。

 早乙女と仲が良いのか?


「班のみんな、わたし、班長に立候補するから」(ユミ)

「えっ、いいの?」(松村)


「だって、班長決めるのに時間かけるのって、無駄じゃん」


「エライ!ユミちゃんはエライぞ!」(横山)


「ユミちゃんって言うの、やめてくれる?横山」

 横山って名前は知ってんだ。


「えっ、えっ!じゃあ、なんて言えば?」

「それは決まってるでしよ。藤原さんでいいよ」


「えっ?」(横山)

「うふふふ、おもしろーい!藤原さん、美人だし、背が高いし、モテたよね?」(加藤)


「まあ、ふつうに。だけど、中学の時なんかイケメンが居なくて、ホント面白くなかったな。でも、藤堂みたいなイケメンなら恋人になってもいいよ!」


「えっ、ユミ、お前、早乙女から話しを聞いてるって言ったよな。オレ達の事を知っててか?どういうこと?」

「なに?なんか不都合とかある?」


「ちょっと待った!今、藤堂はユミって言ったぞ!いいの?」(横山)


「藤堂はいいの!イケメンだし、優しそうだし、奢ってくれそうだし、そして、一番アタマが良いからね!」


「藤堂〜〜、お前になりたかったぞ〜〜」(横山)


 こんなやり取りをしながら、オレは、紫苑の方をチラッと見たりする。

 護道が紫苑に頻りに話しかけている。


 紫苑は、時々、顔を赤らめて笑っている。

 クソッ!

 止めろ、護道!

 お前の息がかかるのを嫌がってるぞ、紫苑は!


 そうして、班が決まり、班長が決まり、自己紹介となった。

 自己紹介は、プレゼンの練習という、クソ面白くもない授業の一環だった。


 なぜか、護道から始まった。以下に要約。

 オレの家は金持ちなので、オレと友達になったら奢ってやる。

 もちろん、女子ならいつでも奢る。

 中学では野球部でキャプテンやってて、野球がめっちゃ上手く、みんなを甲子園へ連れてってやる。

 だから、夏休みは予定を開けといてくれ。

 オレは、将来、プロ野球の選手で若き経営者の二刀流をすることになるので、女子達は早くオレと仲良くなれよな。

 オレは、可愛い女子とは何刀流でもいけるので、たくさんのお友達を作りたいと思っている。

 こんなオレだが、人参が苦手なお子ちゃまだぞ!

 以上だ!


 なんだこれ?

 こいつ、バカだよな。

 ホントにバカだ!


 ところが、周りの女子達の反応は違った。

 ウケている。

 殆どが笑ってる。

 そこの加藤も、一葉も、早乙女ですら笑っている。

 紫苑はと見ると、やはり笑っている。


 えっ?

 オレだけが感覚がおかしいのか?

 女子で笑ってないのは、隣りのユミだけだ。

 でも、ユミは奢ってやるってのに反応してた、膝の上でコブシを握って、小さくガッツポーズをしてたぞ。

 お前、お嬢様じゃねーのかよ!

 奢るって言うのには、男子の殆どが反応してどよめいたからな。

 特に、お前、横山はな!


 しかし、最後の人参のくだりは、絶対に子分が考えたモノだろう。

 あの時の声援から考えて、そんな感じがする。

 何が、お子ちゃまだよ!

 今どき、自己紹介でお子ちゃまだぞって、だいたい、紙を見ながら読み上げてたからな。

 感情が籠ってなくて、そっちの感じだったら笑えるけど。


 次から次へと、自己紹介が為されていく。

 加藤とか早乙女はピアノが得意とか、お嬢さんぽいことを言ってるし、松村はサッカーを熱く語るし、一葉は編み物とか料理が得意で、横山は食いしん坊万歳野郎で、アニメ好きラノベ好きゲーム好きのヲタク。


 紫苑は、早乙女と同じで、中学の時にバレーをしてる。

 アニメやラノベ好きだから、映画の「君の名前は?」が大好きな事とぬいぐるみについて熱く語った。

 オレ、昔、アイツにぬいぐるみをプレゼントしたんだけどな。

 小さいヤツで、カエルのだったから、文句を言ってたよな。

 もう捨ててるだろうけどね。

 でも、アレ、オレが作ったヤツで、グルグルって鳴く仕掛けがあるんだよな。

 カエルのくせに、グルグル言ってるって、怖がってたし。

 バケモノって言われたのには傷ついたっけ。

 懐かしいぜ。


 隣りのユミは、コイツもお嬢さんで、ピアノはもちろんバイオリンもできるし、英語はぺらぺらで、フランス語、ドイツ語も会話ができるんだってよ。

 小さい頃からの英才教育とか、海外旅行とか、海外で暮らしたこともあるとか、育ちが全然違う。


 だからか、コイツ、イケメンしか心を動かされないって言ってたけど、護道は眼中にないとか言ってるし。

 やはり、外人のホリの深い顔とか、鼻立ちが高めのシュッと筋が通ってるのが良いとか、外人のイケメンがタイプなんだろうな。

 もしかして、外人のボーイフレンドが居るのかもな。


 だいたい、このユミって子は、何で女子高とか私立に行かねーのかがナゾだ。

 金持ちのお嬢さんなのに。


 まあ、護道もそうなんだが、コイツは紫苑目当てだからな。

 クソな野郎め。


 他には、赤メガネの女子、黒メガネの男子、身長の高い女子、男勝りな女子、ギャルっぽい女子、太りすぎな男子一人と女子一人、そばかすの多い女子、子供のような小さい男子、髪の長いヲタクっぽい男子、ガッチリ体形の柔道してます男子などなど。


 そうして、オレの順番がやって来た。






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