第60話 自己紹介
「では、最後に藤堂!」
笑いを取りに行くか、オレのほぼ本当の過去を中心に話すか、みんなの自己紹介を参考にしようと思ったが、護道のを聞いて、オレは決心した。
「オレは、藤堂一人です。一人と書いて、かずとって読むんだけど、この名前はオレが考えたんだ」
これには、みんなが驚いた。
こそこそと、クラスメイト達が囁く。
オレは、息を吸い込んだ。
言うんだ、オレの心の声に従って。
「実は、オレは両親に捨てられた。それは、オレのせいなんだ。オレは酷い苛めを受けた。毎日が心を消耗させる日々だったよ。そして、オレは心を病んだ。不登校となって、両親に迷惑を掛けることになった。両親はそんなオレを疎ましく思い、夫婦喧嘩が絶えなくなって、離婚した。病んでいるオレを養う事が出来ないと、親戚に預けられいろいろあったが、最後にオレは今のじいちゃんばあちゃんに助けられた。本当の祖父母ではない。だからじいちゃん、ばあちゃんって言うんだ」
そう言って、また、息を吸い込む。
間違ったことは言っていない。
誇張もしてない。
端折ってはいるけど、オレはちゃんと話す。
そして、もし、オレに興味をもってくれるヤツが居たら、友達になろう。
そう願った。
「名前は、養子になったので変わったし、今までの自分自身を変えるためにも全てを変えた。その時、カズトって名前にしたんだ。じいちゃんもばあちゃんも賛成してくれた。人間は生まれる時も死ぬときも一人かもしれない。そして、最初は何でも一人から始まるのかもしれない。でも、オレは思うんだ。その一人がやっていることがもしもみんなの為になっているのなら、やがて2人3人と仲間が出来てきて、それがやがて大きくなり、世の中をも変えるチカラになるって。だから、まずはオレのチカラ、一人のチカラをつけるって意味で付けた名前なんだ。」
みんな、わかってくれてるだろうか?
オレには、みんなを見回す余裕がない。
ただ、オレの想いが伝わってくれと願うばかりだ。
「オレの好きな言葉に『One for all 、All for one』っていうのがある。もちろん、みんな知ってると思うけど、でも、この言葉には、オレの想いが全て現れている。人間は自分一人だけの為に生きているのではなく、ましてや自分だけ良ければ良いとみんなを犠牲にしたり、ないがしろにするなんて最低だ。そして、一人が困ってたら、それをみんなで助けてやる。一人が苦しんでいたら、みんなが支えてやる。このクラスのみんなは、そんな関係で繋がってほしい。そして、オレはクラスのみんなと友達になりたい。そして、高校生活をみんなで楽しもうと思っている」
どうだ?
上手く、みんなに伝わったか?
ちょっと、マジメすぎたか?
面白くもなんともなかったからな。
紫苑を見た。
顔を隠している。
早乙女を見た。
涙を拭いている?
ハンカチで顔が隠れていてわからん。
ユミが拍手をした。
そして、加藤が、松村が、一葉が、横山が、みんなが次々と拍手してくれた。
女子の何人かが泣いていた。
「藤堂、最後を上手く締めくくってくれたな」
「ありがとうございます」
「今の藤堂の自己紹介、みんな、わかったか?」
「「「「「「「はい!!」」」」」」」
「良い教材になったな!藤堂の自己紹介は、0点だ!」
「「「「「「「「えっ??」」」」」」」」
「いいか、プレゼンでは、時間厳守が第一条件だ!約束の1分をオーバーしたら、その時点で0点だ!」
しまった、調子に乗って、喋りすぎたか!
オレの「ありがとうございます」を返してくれ。
「その点、護道君は、満点だな!1分丁度で、ユーモアがあり、みんなの心に残るスピーチだった」
そりゃあ、奢ってやるとか、人参は苦手なお子ちゃまとか、心に残るよな!
なんだか、やっぱ、この担任は護道贔屓もいい所だ。
なんだか、座が白けちゃって、余計に、オレってイタイな。
ただ、ユミだけはオレに、『藤堂、委員長に決まりだね。感動したよ』って、こっそり耳元で言ってくれた。
こうして、オレは学校を後にした。
これから、アラシが吹き荒れることも知らずに・・・・。
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