第53話

「えっ?・・そんなこと・・もしかして、私の家の前を通ったの?」

(えっ?それって?アレを見られてたの?カズトくんに?何で家のそばに居たの?不自然だよ!ってか、ホント?)


「そうだ。入学式が終わって、オレはヒマだったから、この街を見物がてらジョギングしてたんだよ、そしたら」

 ウソは言ってない。


「待って!アレは、ホントにわたし達が付き合っているとかじゃないわ。あれは、急に護道君が・・・」

(でも、このヒト、なぜ今まで黙ってたの?そして、私だけにそれを伝えようと?それは優しさから、ではないようね。だったら悪巧み?それともただ知りたいだけ?私に意地悪がしたい?ヤダ、どうしよう!わかんない!このひと、頭が良いから、私の弱味を握って何かを?でも、私の家までジョギングって、しかも入学式の後に田辺中の子が?このひと、ある意味、バカ?)


「そうか?だったら、引き剥がすか、もっと嫌がるべきだったろう?なんで抵抗をしなかった?おかしいよな?」

 さあ、どう答える、紫苑!

 これで、お前には、退路などないぞ!

(なんで、このヒト怒ってるの?なんで、わたし、責められてるの?誰にも言わずに、二人になった途端に、わたしに意地悪したいって?って、子供なの?でも、わたしのことが気になるって事よね!それって?)


「カズトくん、わたしをイジメたいの?それとも、そんなにわたしって変なのかな?」


 紫苑は、ニコリと笑い、オレの問いにそう問いかけてコーラを飲んだ。


(落ち着いて、わたし!って、なんかわけわからない事言っちゃったけど、なんで?彼には香織という恋人がいる。もしわたしのことが気になってるんだったら、香織と恋人関係なんかにならないでしょ?だったら、なぜ今になって、入学式の日のことなんかを持ち出して来て、わたしを責めてるの?)


 なんだ?コーラを飲んで時間稼ぎ?

 考え中ってことか?

 紫苑、お前、楽しんでるのか?


 こいつ、子供の時から、変に緊張する場面で笑ったりして余裕みせたりするからな。

 何かの発表会の時、緊張してるオレを笑って、大丈夫だよって余裕の笑みを浮かべてたもんな。

 そうだったな、お前、わかってるぞ、オレには!


 お前は、確かに追い詰められてるって事だよな!

 それなら、畳みかけるぞ!


「イジメてなんかいない。白藤、君の行動が疑問なだけだ。もう一度言う!君の言うように護道が抱きついてきたのなら、好きでないのになぜ抵抗しなかった?」


(好きでなかったらおかしいって?護道君のことを私が好きって事にしないとおかしいとかって?つまり、カズトくんは、護道君の味方で彼からの差し金ってことなの?それなら辻褄が合う。良いライバルって良い友達って事?そういえば、野球部へは誘い合って、一緒に行ったのを見たわ。だいいち、私の家に偶々通って、しかもあんな時に遭遇するって不自然すぎるし、彼の言い訳ってジョギング?怪しすぎるよ。護道君があのことをネタに自分と付き合うようにこのヒトに頼んだ?このヒト、そのために香織に接近してすぐに恋人に?とにかく何かウラがあるわね!)


「覚えてる?わたし、コーラ派よ」

 紫苑は、またしてもニッコリと笑って、またコーラを飲む。


「はあ?こらこら、また話を変えるなよ!」

 つい、ダジャレを言ってしまったけど、気づかないだろ、この場面なんだから!


「コラッ!それ、わたしのジョークだよ!」

 紫苑は笑って言う。

 気づいてるじゃんか!

 こいつ!

 なんて、ナイスな返しだ!

 この前のオレより上手いじゃんかよ!

 腕を上げたな!

 こっちもニヤっと・・・・はっ!!


 ああ、いかんいかん、これは紫苑のペースだ!

 子供の頃に、散々ごまかされたパターンだよ、これ!

 だまされんぞ、オレは!


「ジョークとか、もういいから!いいか、オレは、お前が護道と抱き合ってたのを見たんだ。いいか、抱きつかれてたんじゃない、抱き合ってたんだよ!」

 どうだ?

 いや、これはちょっと、盛ったのかもしれない?

 オレのやまいのせいで記憶が悪い方にねじ曲がってるのかもしれないが、しかし、これくらい言わないと、紫苑はなぜか動じないんだよな。

 ちょっと、ムキになって来たよ。

 でもなんか、半分は困らせようとしてるのかもしれんな、オレって。


 (えっ?でも、見方によってはそう見えるかもしれないってこと。でも、私は抱き合ってるつもりなんかないから!そもそも、なんでこんな事を追及されなきゃならないのかな?仮に抱き合ってたって、カズトくんにはかかわりのない話しだし。護道君の差し金なら、わたし、怒るからね!あっ!違う!そうじゃないよ!護道君なら、抱き合うとかだったら、大っぴらになる可能性だってあるわ。わざわざ、このカズトくんを使う必要がない。そうだわ、今そんな事をしたら、例え友達同士でもカズト君に借りを作ることになるわね。護道君は、自尊心が強いから。だったら、このヒトは変な人ってことよ。どこまで本当の事を話すべきか?ここは、ちょっとばかり嫌味で反撃!)


「でもそれって、カズトくん、ずっと見てたわけよね?まさか、変態さんじゃないよね、カズトくんは?」

 何だって?

 って、変態!!!

 コイツから変態って・・・・・・。

 クソッ!!

 お前、やっぱ、おかしいだろ?

 オレの事、ホントに好きだったのか?

 変態って言われた村雨がどんな気持ちだったのか、考えたことがあるのか?

 それをこんな簡単に、この嫌な単語を使ってくるなんて、許さんぞ!


 オレは、紫苑のことが好きだ、そのハズなんだが、許せる事とそうでない事とがある。


 お前とのこの勝負は絶対に負けない!!


 いつの間にか、オレは紫苑と勝負していたのだった。



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