第43話 やられた!

「カズくん、紫苑のこと、白藤じゃなくてシオンって、言ってるよね?なんで?」

 って、そっち?

 忘れてたよ、シオンって心で言ってたから、つい、言ってしまったぜ。


 しかし、上目遣いで、訊いてきやがったな。

 こういう使い方もあるのか、この上目遣いって?

 この場合の目は、同じ笑い顔でも、おねだりをする時の目じゃなくて、目だけが笑ってねー目をしてる。

 いわゆる、疑惑の目って感じだ。

 しかし、いつも質問にストレートに答えてくれないから、なかなか前に進まないな、オレの疑問は。


「ああ、それな!あはははは!だって、なんか早乙女が紫苑、紫苑って言うから、ついツラレタんだ!あはははは!」

 ごまかせた?


「もう、だったら、香織って呼んでよ。わたし、その方がより恋人って感じでいいんだけど。だって、わたしだけカズトって呼んでるのが上から目線的になっちゃってるなって反省して、カズくん呼びにしてるもん」


 してるもん、してるもん、してるもん・・この言葉がオレの心の中でリフレインされて聞こえた。

 可愛いいいい!!


「ああ、だったら、か・お・り、これでいいか?」

「うふん、まあ、良い事にしてあげる!」

「かおり」

 ちょっと練習してみた。

「な~に、カズト」


 返事が来た。


「香織」

「な~に、カズト」

「香織!」

「カズト!」

「香織!」

「カズト!」


 誰かがずっと聞いてたら、この会話、バカだよな。

 でも、これも恋人プレイってヤツなんだろ?

 楽しいいい!


 はっ!!

 何やってんだ、オレのバカ!!


「えっと、良く聞いてくれ、香織!あのな、さっきの質問なんだけど、ホントにシオンと君の初恋の相手は、その小5の時、どっかへ引っ越した病んだ男の子だったのか?」


「そうだよ。それが、映画のシンジに似てるんで、紫苑なんか映画を何回も見てるんだよね。私は、まだ3回目だけど」

「ええっ?シオンは、4回以上も見てるのか?」

「4回じゃないよ、多分だけど、6回以上かな?」


 なにーー、あの時3回見たとか言ってたの、ウソなのかーー!

 アイツ、ウソつきか!

 なんでウソついた?

 あっ、いや、今はそこじゃねーー!


 オレだ、オレなんだ、コイツ等の初恋の相手って・・・。

 シンジに似てる・・・確かに、オレがそのまま年齢を重ねたら、シンジ顔になってたと思う。


 でも・・なぜだ?

 なぜ、好きだったオレに・・なぜ?



「それでね、えへへへへ、カズトって、あの映画の真一に似てるんだよね。紫苑も言ってたよ。ホント、なんか、偶然ってあるんだね!うふふふふ」


 えっ?

 そうか、それは多分、オレが顔を変える時に参考にしたモテ顔ナンバーワンだったか、ツーだったかの顔だからだよ。

 って、そんな事は言えない。


 どこで狂っちまったのか、オレの計画。

 大前提の、シオンと早乙女がオレ(村雨)を嫌ってるというのは、いったい?

 どこから・・・いやいやいや、まだ疑問があるぜ。


 このこと、そんな簡単な話しじゃねーよな!


「あのな、もう一度、振出しの質問に戻るって言うか、その、オレ達、これからは付き合うんだから、ちょっと君の親友の白藤は、フリーなのか、恋人がいるのかって、そこをはっきりさせてほしいな。だって、オレ達だけイチャイチャするのも、アレだろ?」


「えっ!!やだーー!!イチャイチャなんて・・・・・・するけど(小声)」


「えっ?なんて言った?」


「えへへへへ、私達、ラブラブなのかな?」

 上目遣いで見てくる、早乙女。


 こいつ、ちょっと調子ノッテるんじゃね?

 ・・・・・・でも、可愛い。


「・・・そりゃー、まあ、好きじゃなきゃ、リングなんか買ってあげないよ(小声)」

「えっ?なんて?そこは、小声はイヤ!!」


 コイツ、やっぱ、調子にノッテるな・・可愛いからって、我がままに訊いてきても良いと思いやがって・・・可愛いって、ホント、得だよな!

 って、それは昔のオレなら思った事だ。

 しかし、今のオレは、違う感想を持つ。

 可愛いって、やっぱ、いいよな!

 いや、香織は性格自体も可愛いから、そのくらい、調子に乗るくらいは、さらに可愛さが増すので許す!


 でも、まだ、お前に対する、オレの疑惑は晴れちゃーいねーのな。


(もう、わたし、ダメ・・カズトにわたしの全てを曝け出しそう・・お子ちゃまなわたしに・・甘えん坊のわたしになっちゃう・・・これが、両想いの、恋人同士の、カップルの、イチャイチャの、関係なのね!バカップルの女の子になっちゃいそう!いつも、うらやま・・いえ、軽蔑してたバカップルに、このわたしが・・ああ・・)


「リングなんか、買ってあげないよ!」

「ヤダ!買って!って、そこじゃない!」


「おまえ、ボケ突っ込み出来るんだな、あはははは!」

「なによ、それ!」

「えっ?わざとじゃない、素でボケ突っ込み?お前、デキル女だと思っていたけど、天然だったのか?いや、天才か?」


「何を言ってんのかわかんないけど、天才のほうにして!」

「・・天才・・くっ・・あはははは!」

「えっ?どこ?どこをツボっちゃった?」


「くっ・・はは・・くく・・その真面目な可愛い顔するなよ、余計に笑える・・く、くるしい・・あははははは!!」

 オレ、こんなに笑ったの、何年ぶりだ?


 なんだよ、恋人って、楽しいのかよ?

 コイツの顔・・あははははは!


「可愛いとか、いつも言ってくれてうれしいけど、なぜ私を見て笑うんですか!」

 ぷくっとフクレタ。

 可愛い!

 けど、笑える!

「早乙女は、良い子だよ・・くふふふ、あはははは!」

 それに比べ、オレは、悪いヤツだ。

 確かに、オレは、早乙女が好きになってる。

 でも、心の底から好きってわけじゃない。


 だけど、このオレの笑いは心の底からの笑いだ。

 だから、オレを許してくれ。

 ウソをついて恋人とか言ってる、このオレを。

 なあ、香織・・・・・・・。


「それ、答えになってないよ・・うふふふ、えへへへ、あはははは!」

 なぜか、早乙女も笑った。


 こんな時間が、オレにもやってくるなんて。

 女子と、しかも、こんな美人と笑い合ってるなんて。


 オレ、今だけ・・今だけは、何もかも忘れて、彼女とラブラブでいても良いよね。

 今だけは、過去の事を忘れても・・・・。


 オレは、笑いながら、過去の事というフレーズが浮かんだ瞬間、笑いが止んでしまった。


 涙が流れた。


「カズくん、泣いてるの?それほど、ツボっちゃった?」


 手のひらで、顔を隠しながら、オレはわかった。

 あの頃の顔になっている。

 目が、たぶん、死んでいるあの頃の顔に・・・。


 突然なんで、早乙女は不審に思ったかもだけど、オレの今の顔は多分、酷い顔だ。


「笑い過ぎて、涙が出ちゃって・・・・・・・ごめん」

 なんで、こんな時に、あの時の映像がフラッシュバックしてくるんだ!


 オレ、香織と楽しくしたらダメなのか?

 どうしたら、この映像がなくなる?

 どうしたら、もう見なくなる?


 オレ、香織とただ、笑い合ってるだけなのに!

 どうしてだよ、どうして、すぐにあの事が浮かんでくるんだよ!

 医者にも通った。

 もう大丈夫と言われた。

 じいちゃんとも、ばあちゃんとも話し合い、鍛錬をした。

 でも、それでも、こんな事じゃあ、オレ、どうしたらいいんだよ!


 無理やり、楽しいイメージを作り、作り笑いを作った。

 そして、手のひらをどけた。


 目の前には、香織の顔があった。

 そして、彼女は、オレにキスをした。


「!!!!!」


 ほっぺだけど、不意打ちだった!

 ほっぺだけど!

 


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