第37話 魔王、そして勇者と聖女

  ~~~映画のお話


 なかなか向上しない身体能力に、悩むシン。


 魔術の授業は、僕だけ別メニューで、ジジイにマンツーで鍛えられた。

 だから、同期のモノ達は誰も知らない、オレの魔法の事を。

 魔法で身体能力なんか向上できるのに、何で魔法はダメなんだ、それに剣術だってオレは魔法剣士なんだから、魔法ありきで鍛えるべきだろ?

 父上の魔王に、つい、愚痴を言ってしまった。


「何度言ったらわかるのだ!お前には次期魔王として、人物を見る目を養う必要がある。だから、能力を隠した自分を他人はどのような態度で接してくるのかをよく見るのだ。魔人族のワシ等は、自分より劣る者に対して、特に侮る傾向がある。得てして、そういう者ほど、つまらん奴なんだ。そして、そういう弱いと見なす相手に対する時、その者の本性が現れやすい。身分をわきまえて接する者、自分を侮る者、自分の事をないがしろにする者、口だけで態度は不遜な者、与し易しと媚びを売る者、無視する者などなど、態度や仕草を見極めよ。そして、真の友情、真の忠誠、真の愛情を持つ者を見つけよ!お前ならできる!お前は、生まれた時から既に王の気質を持っているのだからな、ワシと違って」


「そんなこと・・・ぼくは・・ぼくは父上より数段弱いです!それに、これ以上、周りの者たちから憐みの目で見られたくありません。ぼくは、弱いんです。チカラも、心も」


「そうか、だったら鍛えるしかあるまい。心身と頭脳をもっと鍛えよ!」

「どうしたら、いったいどうしたら心が鍛えられるって言うんですか?」


「ある者は身につける叡智によるとも、ある者は己が鍛える身体によるとも、またある者はどん底を経験することによるとも、いろいろと言われておる。ワシが思うには、やはり、どん底を経験するのが手っ取り早い。しかし、そんなことになれと言っても、そう簡単になれるモノではない。だから、まずは叡智と強靭な身体とを身につけるしかないのだよ、息子よ。わかってくれるか?わかったよな!」


「・・はい、父上の仰せの通りです。ぼく、がんばります」


 実は、父上は本当のことを半分しか言っていなかったのだと、後でわかるのだが・・・・。


 〜〜〜映画の次の話とオレの想い


 次の話では、シンは、救護所の常連となり、弱いというウワサで陰口を言われたり、露骨に嫌な顔をされたりして、友達とかは出来なかった。好きな子に告白も出来ず、その子が他の強い魔族と恋人になってしまい落ち込んだり、訓練という容赦ない仕打ちに会い2、3回死にそうにもなった。魔族というのは、チカラが全てと考える者が普通なのだから、誰を責めることも出来ず、仕方の無い事だった。

 ホントは、彼の魔法の凄さもアニメでは見せるのよねって早乙女は言うのだが、演出上の効果だろうか、それらは端折られており、映画ではシンの真の姿を見せることなく、やたらと悲惨な仕打ちがシンを襲う。


 シン、お前は、オレと同じ様に弱い心を克服しようとしてる。

 シン、頑張れ!


 そして、オレは、弱い心への対処法のヒントを見つけた。

 でも、それは、いずれにしろ、確かに辛いモノなんだとわかった。


 わかったのだから、もう実行するのみだよな。

 この映画、オレの為にあるのか?

 ふと、そんな事が頭をよぎった。 


 〜〜〜映画のクラスメイトの話とオレの感想


 映画は、一転して、勇者として召喚されたクラスメイトの話しになっていた。


 この話、真一はシンという名前で転生したけど、クラスメイト達は召喚され転移したのだった。

 当然ながら、タイムラグの問題があるのだが、どうやら、クラスメイト達が召喚されたのは、シンが成長し、14歳を過ぎた頃になっているようだった。

 異世界とオレ達の世界の時間は、別段、並行して同時期に同じ速さで進んでいる訳ではないという事らしい。


 でも、クラスメイトって、16歳くらいだったから、シンより年上じゃね?とか思ったけど、それも召喚された時にある程度の補正ができるようだった。


 詳しいことは、マニアな早乙女に訊いたらいいのだけど、そういう細かいことは気にせずに進行していくスピード感が面白い。


 マニア的には、あそこが省かれてるとか、あそこの名場面が抜けてるとか、いろいろと物議を醸してるらしいが、時間の制約とかがあるから、映画を作る方も端折らないと仕方が無いのだろう。

 かく言うオレの言葉を借りて説明する筆者も、この映画の話しをなんとか端折ろうとしているのだがw



 クラスメイト達とは、ヒロインのシオーネ(シオリ)、その親友のアイリーン(アカリ)、クラスのマドンナ的存在ユリア(ユカリ)、クラスで一番のイケメン君シン(シンジ)、その親友でシンジと人気を二分するケン(ケンジ)だった。


 人間関係は、転生前は、アカリはケンジが好きで、ユカリとシンジは付き合ってるとウワサの仲、そして、シンジはシオリも好きで自分のオンナの一人にしたいと願っていた。

 もともと、シンジは偲ぶ会などどうでも良く、シオリが参加するのでってことと、悲しむ彼女を慰めて仲良くなろうという魂胆だったのだ。


 彼らは召喚されてから、男は勇者として、女は聖女として、人間族を統べる王国の切り札となるべく、まずはと魔法や剣術などの訓練をさせられていた。


「勇者様に聖女様、スジが大変におよろしいです!明後日は、予定通り実戦に行きますので、明日の一日は、初めての休日といたします。王都へ行ってもよろしいですよ。ですが、軽はずみな行動だけは慎んでくださいね。もちろん、王都へ行くなら護衛騎士をつけますから、そこはご安心ください」


 こうして、彼らはみんな、翌日、王都へ行った。


「ユリア、おまえ、甘いモノ、食べたいって言ってただろ?この護衛騎士が良い所を案内してやるだとさ」(シンジ)

「ほんと?やったーーー!!こっちに来てから、あま~いモノを食べてないから、イヤになってたところよ、ねえ、アイリ(アイリーン)?」


「うん、ホントにね。わたし、絶対にたくさん食べちゃうんだから!ねえ、シオン(シオーネ)は、どうする?」


 えっ?シオンって言うの?

 あっ!だからか?

 シオンって、アニメやら漫画やらヲタク的な趣味はなかったハズ。

 女の子が見る魔法使い的なアニメは見てたようだけど。

 でも、そんなシオンがこの映画を3回も見るなんて、おかしいと思ったんだ。

 シオンのヤツ、名前が同じだから、自分をこのヒロインキャラに重ね合わせてるんじゃね、バカなヤツ!


 「私は、道具屋さんに行こうかな。ちょっと興味があるんだよね」(シオン)


「そう?じゃあ、ケンは行くでしょ?」(アイリ)


「仕方がねーな!付き合ってやるか!シンは、どうするよ?」


「オレは、武器屋へ行こうと思ってるんだ。ちょっと興味があってな」


「な~んだ、残念。じゃあ、また後でね!シン!」(ユリア)


「ああ、ゆっくり、楽しんで来いよ、ユリア!」


 こうして、彼女、彼らはそれぞれ好きなところへと行った。

 シンジも、もちろん、好きなところへ行った。


「道具屋はここかな?護衛騎士さん?」

「ちょっと、待って下さいね。いきなり聖女様が来られたら慌てふためきますから、お話をつけてまいります」

 護衛騎士は、そのお目当ての道具屋へ入って行った。


「シオン!奇遇だな!」

「えっ?シン?こっちだったの、武器屋さんは?」


「ああ、ちょっと、話したいことがあるんだ。内緒ごとなんで、こっちに来てくれ」

 そう言うと、シンはシオンの手を取り、家と家の間に入って、壁ドンをした。


「シオン、オレ、君の事が大好きなんだ!」

 そう言うと、顔を近づけて来た。

「えっ?ちょ、ちょっと・・」

 シオンは、びっくりして、動けなかった。


 シンの息がシオンの顔にかかる。

 シオンは、頬を染める。


 シオンの目が閉じられ、顎が少し上を向き、シオンはシンの想いを受け入れようとしていたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る