第28話 しかし、バットって?
練習試合を見学しながら、佐山の話しを聞く。
佐山が言うには、護道の使ったバットは異常らしい。
そして、本当にそうなのか、この試合でわかるかもしれないと言うのだ。
ところで練習相手は、良く試合をする学校で、レベル的に同じようなチームであり、3回戦で勝つかどうかくらいのレベルだ。
試合は1対1だったのが、1対2と逆点され、6回表の相手の攻撃になっていた。
ノーアウト1,2塁のピンチとなり、ここで護道が投手として登場した。
オレ達は、護道の子分と護道ファンの女子達の声援を聞きながら、護道の投球を見守った。
因みに、護道ファンの中には、あの久美子がいた。
しかし、シオンとか早乙女は居なかった。
まあ、どうでもいいんだけどな!
また因みに、同じクラスの田辺中のヤツ等は、オレのホームランを見終わってから笑顔でどこかへ行ってしまったようで、見当たらない。
アイツ等も、たしか、部活とかに見学に行くとか言ってた気がしたけど、オレは適当に聞いていたので覚えていなかった。
これは、オレの戦いだからヤツ等には関係がないし、そもそも知らせてなかったからな。
オレは、ヤツ等にも少し、壁を感じている。
ヤツ等とここに居る田辺中のコイツ等とは、友達だと思っているよ。
でも、同じなんだ。
この田辺中の者達は、同じ色合いがするんだよな、オレに向ける感情の色合いが。
同じ友達のようでいて中に踏み込んでこないというか、連帯感があるようでいて、オレだけは少し意味合いが違うというか、もどかしい壁があるような感じだ。
それは、オレがスーパーマシーンと呼ばれ、中学時代に友達を作らず、孤高の存在として在学していたためだと思う。
もう過去の事だが、しかし、それは今に繋がっている。
オレは、どうしたら親友が出来るんだろう?
こっちの方も、大きな課題だった。
親友か?
しかし、親友って必要だと考えてたが、それはホントにそうなんだろうか?
今、コイツ等と友達ごっこをしている。
そうだ、友達ごっこなんだよ。
一見、オレのことを想って護道の事を探ろうとしているが、それは自分たちの為でもあるよな。
自分たちが野球部員としてやっていけるのかどうか、部員になった時の護道達一中の者たちとの関係や、先輩たちとの関係とか、いろいろと考えての行動だとも言えるだろう。
オレとは、
そこには、田辺中組の、深謀遠慮が働いてるって事だよ。
「ごっどっおー、ごっどっおー、ごっどっおー・・・」
オレがそんな事を考えながら試合を適当に見ていたら、突然の護道コールにびっくりした。
アイツ等、そんなに護道にすり寄っていって、面白いか?
すり寄るってのは、アレだよ、本当にヤツを好きなのか、あるいはそうすることで自分に何らかの利益があるのかって事だよな。
あの護道コール、気色が悪い。
そして、ムカつく。
アレに手拍子をしたシオンとか早乙女とか、有り得ねーからな、絶対に!
アイツ等の感性は、オレとは、その点でも隔絶しているってわかったよ。
クソだ!
クソな性格だよ!
どんなに可愛くても、どんなに美人でも、性格が醜くては・・・いや、これはオレだけの意見だろうから、他人には言えないな。
ここに居る田辺中のヤツ等にも言えないことだ。
また、オレが変わった奴だと認識されたら、もうオレはどうしていいのかわからねーから・・・・。
護道は、6回表のピンチを三者三振に仕留め、さらに歓声が高まった。
護道も、護道コールにガッツポーズで応えている。
クソめ!
反吐が出る!
次の再戦では、叩き潰してやる!
そして、6回裏、こちらはオレ等?のチームの攻撃だが、あっけなく三者凡退に終わる。
7回表、再び、護道の登板。
これまた三者三振。
7回裏、相手ピッチャーは緊張したのか、先頭打者がフォアボールで出塁。
次打者は送りバント失敗。
次の打者は、ボテボテの内野ゴロが幸いし、結果的に送った格好となって、ツーアウト2塁。
そして、次の打者は、護道だった。
何度か素振りをして、自信満々な様子で、不敵な笑みを浮かべている。
護道コールがヒートアップして、とにかく、うるさい。
コイツ等の顔、この狂気を孕んだ様な顔、この熱にうなされた様な顔!
気色悪い。
吐きそうだ。
あの光景が、またしても蘇る。
オレに怒りをぶつけるように、嘲笑う様に、おぞましく、歪んだ笑顔を浮かべて、みんなが合唱している、あの時・・・・。
もういいよ。
もう、お前等いいから、出て来るな!
クソッ!
気持ちが悪い・・・・。
オレは、この場所から逃げたかった。
これって、PTSDとかいうヤツか?
ちくしょう!
こんなモノ!
そうだよ、これを、このどうしようもないフラッシュバックの映像と気持ち悪さの克服をなんとかしないと、オレがオレでなくなる。
せっかく、今まで努力して芽生えてきた自信もなくなってしまう。
護道!
早く、三振しろ!
そう心で思っていた。
「さあ、この打席で、バットのナゾがわかるかもしれないよ」
佐山は、なぜかワクワクしながら、試合を見つめる。
ああ、コイツ等みたいに、単純に試合を見たい・・いや、野球なんか、どうでもいい。
早く、護道を野球でぶちのめして、そして、オレは・・そうか、その時にオレは、この気持ち悪さから逃れられるのかもしれない。
全ては、護道を倒してからだ!
オレは、たぶん、今血走った目でヤツを見ているだろう。
ホントに目が充血しているのじゃなく、PTSDをヤツへの闘志に変えようと、必死になってヤツを睨みつけていた。
そして、ヤツの攻略のヒントがわかるかもしれないヤツの打席をじっと見つめた。
果たして、佐山の言う通りなのか?
オレは、この時、まだ半信半疑だった。
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