第2話

 夢を見た。

 窓の外は、雪が降っていた。部屋のなか。エアコンの温々ぬくぬくした感じ。こたつ。彼女が、丸まっている。机にそのまま突っ伏しているので、少しだけ頭を持ち上げて、クッション代わりに枕を突っ込んだ。


「もふ」


 変な声と共に、彼女が枕に沈み込む。

 彼女の手が、伸びてきて。自分にふれる。暖かい。右手。左手も伸びてきた。何か持っている。


「コーンスープ」


 缶のやつ。彼女が枕に突っ伏したまま、器用にコーンスープを開ける。見えてないのに、まるで見えてるみたいな動き。

 目の前に置かれたコーンスープ。

 少しだけ、飲む。

 ぬくい。彼女の体温かと、少しだけ、思う。


「んあ」


 頭を上げるのも億劫おっくうそうだったので、持ち上げてあげる。


「んく。んぐ。んぐ」


 コーンスープを、彼女が飲む。どんどん吸い込まれていって。なくなった。くちもとを、拭う。気持ちよさそうにしている彼女。拭い終わったあと、少しだけキスをして。また彼女は枕に沈んでいった。

 そして、また手が伸びてきて。コーンスープ。2缶目。今度は、自分が開ける番らしい。手渡されたコーンスープは、やっぱり温々していた。


 開けようとして。


 目が覚める。


 風鈴の音と、エアコン。太陽の光。

 ちょっとだけ手を伸ばしてみる。

 何もない。コーンスープも、彼女の温もりも。窓の外の雪さえも。

 夏だけがここにある。


 電話。

 話し半分に聞きながら、家を出る。

 海岸線。幹線道路。この前までなかった、歩道。迎えの車を待ちながら、歩く。

 この景色も。

 夏の光も。

 ここにある。

 夢だけが、ここに無い。

 思い出そうとしても、思い出せない。すべてが朧気おぼろげで、手を伸ばしても、掴めないような。そんな感覚。


 迎えの車に乗り込む。


「いつもの場所へ」


 駅前の、ちょっとした空き地へ。

 いつも、街に用があると、ここを眺めに来る。

 こんな空き地に。何があるのか。自分でも分からない。でも。ここに、何かが。あったような。そんな気がする。忘れられない、何か。とても大事な、何か。

 何もなかった。ただの空き地。人ひとりいない。自分だけ。

夏の陽射し。

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