第47話 決断

 その帰り道……。

 ケビンは先ほどからずっと金庫のことが頭から離れず、ガベージダンプに入ってから出てくるまでのことを何度も反芻していた。


「流石に、指をくわえているだけって言う選択肢は僕達にはない。 かと言って、ガルドが言うように試合で勝ち取ることも出来ない」


「だが、正攻法は使えないとなると、邪道で解決するしかない」


 ベルカの言うことはもっともだ。 


「うん。 だけど、僕らにはまだ試してないことがあるかもしれない。 例えば、勝利した出場者であの金庫を選んだ人から直接買い取るって言うのはどう? ……僕のお金じゃないけど」


 パトロンはもちろんカクラム商会だが、調査員捜査の必要経費として出してもらうつもりだ。


「それも悪くはないと思うが、ここは荒くれが集まる街だ。 出場者が「誰と」繋がっているかわからない以上、ヘタな交渉は調査員とのつながりを気取られる恐れもある。 そうなったら私たちも同じ末路を辿る危険がある。 それにだ、もし試合前に全員にそんな口利きしたら、出場者や運営本部であるガベージダンプは八百長を疑われるだろう。 あのガルド・レドがそれを良しとするとは思えない」


「……うん、確かにベルカの言う通りかも。 それに、勝利者が僕達の目論見どおりの物を手に入れてくれるか分からないよね。 あそこには、少なくとも五十は景品があったわけだし、急に目移りするかもしれない。 というか、もし勝者が目録から選ばなかった場合、次回に持越しとかになるのかな」


 もしそうなった場合、手がかりである金庫を手に入れる機会は先延ばしになってしまう。 当然、調査員の行方も分からない以上その選択肢は無い。


「そうだろうな。 となると、単純に考えるなら二通りの選択肢がある。 一つは正攻法。 優勝して手に入れる。 言っておいてなんだが、これはそもそも論外だ。 私たちにはそういったつながりをもった機士もいなければ、機体もない。 父さんに出てもらうわけにも行かないからね」


「そりゃ、もちろんだ」


 バーンウッドの英雄に、闇試合に出場してもらうわけにはいかない。


「もう一つは、盗む。 ちなみに、あまりお勧めできない」


「そりゃあ、まぁ、犯罪だからね」


「……ああ、そうだな」


「それでも、僕たちには正攻法で手にする手段がない。 これは……参ったね」


 この調査を受けた時から、一筋縄ではいかないだろうということはケビンも覚悟していた。 ただでさえ治安の悪い場所へと赴くのだから、相応の苦難は待ち受けているだろうと。 しかし、流石にこの展開は予想もしていなかった。


「とりあえず、現状をバーンウッドに電報で知らせよう。 考える頭数は多いほうがいいし、もしかしたら、会長が最適な案を出してくれるかも。 本格的に動いたり考えたりするのは、明日からにしよう」


「……ああ」


 ケビンは「あれ、でもここって電報打てる場所あるのかな……」などと顎に手を当てて考え込んでいるが、一方のベルカはと言えば、そんなケビンの様子を見つめながら、表情を崩さず、一つの決断を心の中で済ませるのだった。

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