1.SNSの禁止

「おはよう、咲夜」

「はよー」

席につくなり、机の中に教科書を入れようとかばんのチャックを開けると、観察日記が姿を表した。咲夜はそれを手に取るなり、しばらく見つめた。

「げ、空、こいつ本当につけてんじゃん」

昨日、咲夜の宣言を聞いていた空の友達が横からひょっこりと顔を覗かせながら観察日記を見て、眉を寄せる。

「まだ、つけてねーし」

「そういう問題じゃないんだよ。キモいんだよ、お前。なあ? 空」

「……」

空は何も言わなかった。いや、板挟みにされているせいで何も言えなかったのだ。肯定して友達側につけば、咲夜を傷つけ、はたまた否定をすると友達に引かれると思ったからだ。なぜ自分の観察日記をつけるのかはまだ謎のままであるが、昨日の宣言といい、実物の観察日記といい、咲夜の言っていたことは冗談なんかじゃなくて本気なのかもしれないと、空は思い始めていた。咲夜のことだ。きっと全て私のためなのだ。

「早速だ、空。お前、いくつSNSをやっている?」

「そんなこと聞くとか、なに、ストーカー?」

「うるせえ、ほっとけ」

「美久、ちょっと」

「あたしは、この変態男から空を守ってんの」

この通り、空の一番仲の良い女友達ー美久はなにかにつけて、俺に当たってくる。幼馴染だからって俺と空が仲良いのが気に食わないようだ。俺に空を取られてしまうと思っているのだろう。「幼馴染」というポジションは友達よりも遥かに強いから。ま、仲が良いというのが前提なんだが。

(まあ、空の一番仲の良い男友達は、親友は俺だし。そうじゃないと許さないし。まだ女友達ランキングで一位だということをありがたいと思えってんだ)

咲夜は口には出さなかった。また美久にとやかく言われたくなかったからだ。

「空」

咲夜は念を押した。

(これは、俺と空、二人だけの話だ。だから部外者は必要ない)

「私達がいつも連絡を取り合うのに使っているのだけだよ」

「そうか、じゃあ、不特定多数が見れるようなやつはやっていないんだな?」

「うん、そうだよ」

「そうか……良かった。いいか、空。俺らがいつも連絡を取り合っているやつ以外に、絶対に不特定多数が見れるような類のものをやるなよ?」

「私、あんまり得意じゃないから、やらないけどさ……なんでなの?」

「それなら好都合だ。その類には色んな危険があるからだ。プロフィールなんていくらでもごまかすことが出来るんだ。どんな人物かもどこにいるのかも分からないような人間と関わるのはだめだ。それこそ空のストーカーがいるかもしれないんだぞ」

「え……?」

「織田、あんまり空を怖がらすようなことを言うな」

「だって、ほんとのことだろ」

「……空、私達は危険を考慮して、自分の責任でそれらをやっている」

「私、なんか怖くなってきたかも」

「絶対にやらなくちゃいけないことじゃないから、私は絶対にやれとは言わないし、織田の意見も考慮するなら薦めない。可愛い空になにか起こるのは嫌だから」

珍しく美久が咲夜に同調した。そのことに咲夜は内心、少し気持ち悪いと思った。だが同時に自分の意見を後押ししてくれる言葉だったのでホッとした。

「連絡が取れればいいから、私、いつも連絡用に使っているのだけでいいかも」

「そうだ。それでいい」

学校が終わり家に帰った咲夜は、課題をやるよりも先に、観察日記へと手を伸ばした。

『題:怯える空が可愛い。

今日、観察日記を学校へと持参した。高田(こうだ)に色々言われたが、最終的に空が不特定多数が見れる類のSNSをやらないと言ってくれたから、良かった。安心した。

自分自身、その類のものをやっていて、彼氏に振られた故に暇で、俺のことを誘惑してきた女(いや女であるかも定かではない)がいて、恐怖を感じた経験があるから、空には絶対にやって欲しくなかった。自分は友達に進められたそのアプリを削除して以来、連絡用に使っているやつだけを残して、他のその類のものを一切やっていない。』

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