人間観察日記
ABC
プロローグ
考えれば、子供の頃は何にでもなれる可能性を秘めていたはずだった。言動が残酷なくらい純粋無垢だったのに、大人に近づいた今となっては現実主義となった。早くから自分の限界を決めてしまっていて、忖度をすることで、子供のように素直に感情を出すことも少なくなってしまった気がする。
「俺、今日からお前の観察日記つけるから」
咲夜は空の座る机の前に立ち、少々大きな声でそう言い放った。皆の視線が二人へと集まる。案の定、空は目を丸くさせている。
「どうしたの、急に。どういうこと?」
意外にも空は冷静だった。咲夜は冗談を言っているのだと思ったのだ。
「俺、お前が心配なんだ」
「え?」
突然の咲夜のその言葉に、空は動揺した。
「な、何なの、さっきから」
顔が紅潮したのを悟られないように、空は咲夜から目線を外した。
「きっと、お前はこの高校生活で精神が壊れてしまうと思うんだ。いや、精神だけでなく体もだ」
「なんでそんなことが分かるのよ?」
「だってお前は、」
「何よ」
食い気味に聞かれて、咲夜は口をつぐんだ。心の中ではそう思っていても、決して言ってはいけないことだと思った。
(空、お前は本当は弱い気がする)
「……なんでもねー」
「もう。あと、お前って呼ばないでっていつも言ってるじゃん」
「分かってるよ」
「よく分かんないけど、変なことは書かないでよ」
咲夜と空は幼馴染だ。咲夜のこれまでの思い出の中に空がいなかったことはない。「高校生活は精神も体も壊れてしまう」と聞いたことがあった。友達から信じられないような噂が回ってきたり、使用を許可された媒体の中で心無い一言を目にしてしまうかもしれないからだ。そして、その媒体を使って今まで考えもしなかった逃げ道を見つけてしまうのだ。必ずしも全員ではないが、空がそうなる可能性が全くないわけではなかった。だから、咲夜は観察日記をつけることにしたのだ。
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