夜行車

萊奈

夜行車



 車を走らせた。

 車はネオンに包まれる街を抜けていく

 



迫りゆく暗闇に私は僅かな希望を抱いていた。






「 ______誘拐になるのかな  」





月明かりに照らされた少し座高の高い貴方に問いかけた。

そして口に出してみると重いその言葉に貴方はくすっと笑ってこちらを見た。



『 言ってしまえばそういうものでしょ 』

「 余裕なんだね 」

『 そう見えるならいいや、……今からでも引き返せるよ? 』

「 ………… 戻らない。 」





そう言うと貴方は優しく笑ってハンドルを持ち直した。

その笑顔に何度心が揺れたことだろう。





貴方の横顔を見てると息が止まりそうで窓に視線を移す。

辺りは暗くて見えるのはライトに照らされた一本道。

その道は間違いなく私が自ら選んだ道だった。

これは、貴方を見つけたその日から決まっていた運命だろうか

この道に終わりがなければいいのに。













『 着いたよ 』





ドアを開け、車に降りて見えたのは木の家。

もう、独りで泣くことはない。どこか安心感があった。



 


「 素敵なとこだね 」

『 でしょ、一目惚れしたんだ 』

「 ずっとここがいいな 」

『 ふふ、そうだね 』








お互いの不安を押し殺して手を重ねた。

一年でもたてば言えるだろうか

何もない、暗い未来に足を踏み出した理由を。

貴方について行った理由を


それは決して見えないことを。




その日は貴方に優しく抱きしめられて眠りについた。

幸せな夜だった























〈 怖かったでしょう  〉





幸せは長くは続かなかった。

どこか知っていたかもしれない、私たちに永遠の幸せがないこと。

切実に願っていたはずなのに



「 怖くなんかないです 」


前の警察官は困ったように笑った。

視線の端に数人の男に連れられた貴方が見えた。

何も考えられずに貴方に走り寄る





「 っ、彼を離して!やめて! 」

『 ごめん 』

「 何で謝るの? 」



貴方は力無さそうに笑った

このままでは貴方が悪者になってしまう。




「 二人で死のうよ 」

『 馬鹿なこと言ってないで 』

「そんな、なんでっ、 」


泣き喚いたってきっとわかってくれないのはわかってる。

だからって引き下がれない、私は










〈 やめなさい 〉


「 こないで 」




自分が何をしているか分かっている。

黒い拳銃を握り直した。

もう迷いもない、あの日帰らないといった日から?いや、貴方に出会った日から



握っているものと同じものが私に何丁も向けられる



「 彼を離して!子供だからって見くびらないでよ 」

〈 あなた、下さないと死ぬのよ? 〉

「 構わない 」




視界が曇っていく。辛い、苦しい、涙が頬を伝う。

何で

私はただ愛してる人といたいそれだけなのに

悲しみと怒りが混ざり合って怯んでいる警察を睨む


何がわかる?子供だと、自分達より力のないものだと見下している人に。

守、なんて言っているのに肝心な時に私を救ってくれなかったくせに




引き金を引くと、引き金が引かれた。


もういっそ、死んでしまった方が楽なのかもしれない。

でも手は汚したくない。



空に向かって打った。

それはいるかもしれない運命を定めた神に向けたものだった。

それと同時に鈍い音が響き渡った。













目を開いてうつり込んだのは真っ赤に染められた貴方だった




「 何でよ 」

『 よかった生きてる 』

「 裕太くん 」

『 死ぬ時に君を見れるなんて嬉しいな 』

「 やめて、 」

『 ありがとう 』





貴方の頬を私の涙が濡らした

揺らしても揺らしても貴方は目を覚ます事がなかった

これは神に銃を向けた天罰だろうか



警察を見れば何かドラマを見ているような目でこちらを見ていた



救急車でも呼んでよ、



嗚呼、悟った

ここにきた人たちは任務を務めるべく来ただけだ、生きた私を連れ帰ればいいのだ






本当の愛を知らないんだ。











鈍い音がまた鳴り響いた














【 行方不明だった女子高生見つけるも自殺、事件の真相とは?  】
















_____________







「 見つけた、 」


貴方は目を丸くして驚いた


『 ほんと、あなたってひとは 』

「ずっと一緒にいて 」






幸せを噛み締め貴方に抱きついた。














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夜行車 萊奈 @ytaka0919

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