第37話

「彼が攻撃をするごとに鬼の傷跡が変化しています。

 虎の方は変わりありませんが鬼の方は攻撃の方法、防御、受け身のやり方が変わるたびに変化しています。

 それも我々の業界なら誰もが知っていて当然の鬼ばかり。」

『知っていて当然の鬼か。』

「詳しくは後ほど書類にて送りますが酒吞童子などの日本神話有数の鬼の鳥獣戯画のような形で見受けられます。」


ゴゴゴゴゴゴゴ!


「きゃっ!…地震?」

『大丈夫か何があった?』

「地震だと思いますがそちらは揺れませんでしたか?」

『こっちは全く揺れていないぞ。ニュースを見てもそのような情報は一切ない。それで明日香は無事か?』

「はい旦那様お嬢様は間違いなく無事でございます。」

『異界かしていることを想定して動け。至急私も向かう。』


プツン


その言葉とともに電話切った音がした。

加藤

それは仮の家名で彼らの真の家名は神問。

神に問われる人間たちという意味を込られた呪いの家名。


「しかし、この状況は不味いですね。如何に彼が圧倒的とはいえ。」

「…………そうで…もな……い……よ……。」


反射的行動だった。

無意識に普段隠し持っている暗器に手が行った。

現代日本の一般人の中では考えられないほどの修羅場を掻い潜ってきた詩は今背後に居るのは自分の手で終えるか解らないほどの実力者であることを直感的に察知した。


「……見て………。」

「無礼をお詫び申し上げます。」

「…………見て………彼…を………。」


背後から話しかけられた彼女ミウスに対して一言謝罪を入れるとミウスが指をさしている刀赤の戦闘を行っている様子を再び目を向けた。


「何で五覚の使い方まで時偶流にあるのかは知らねえけどこの技術はスキル扱いではないんだよな?」


五覚はスキルとしては存在しない技術と賢者が残した遺物には残っていたが時偶流の中には存在していた。

初めて使う技術が故に並列思考スキルをフル稼働させてスーパーコンピュータ並みの仕事をさせていたが演算中に並列思考の一人が時偶流の中に同じ原理の技があることに気が付いた。

技の原理的には同じだが使っていた人は時偶流の中に数十人と居た。

時偶流は時代と共に移り変わる技術に対応するように形を変えていったがこの技術だけはどこの時代にも最低1人は居た。


「謎しかねえな。」


今は考えてもしょうがないと思い、時偶流の中でこの状況を打破する方法が存在していたので試してみることにした。

この五覚の技は基礎としてどこの五感によっているかを判断したのちに自分の得意な五感を伸ばしていく。

俺の場合は三位一体を用いることで得意な五感は存在しない。

視覚を本体。

聴覚、嗅覚を並列思考1に。

味覚、触覚を並列思考2に割り振っているので強いて言えば視覚が最も手を付けていると言える。


して得意な五感によって五覚でできる能力が決まる。


視覚なら目にコマンドを持てる。

所謂魔眼のようなものだが違う。

その能力は術者の最も好まない感情を込めた視線となるらしい。

魔眼は魔力を用いて行われるのに対して五覚の視覚系統の能力は感情を惑わせる視線を導入できる。


聴覚ならば振動を全て区別できるようになる。

副次的な効果として特殊な音声を発声できるようなるらしい。

また術者によっては電子レンジのようなことができていたようだ。


嗅覚ならば匂いから過去を読み未来への予想図を作成する疑似的な未来予知。

脳のキャパシティも増えて耐えられる演算効率も上がる。


味覚ならば敵の戦闘スタイルから体系持病まで何から何まで感知する。

細菌、毒、呪いに対して強力な免疫作用を得る。


触覚ならば空気の振動から視界から情報を得るよりも早く感知することができる。

反射神経も向上して極めれば嗅覚の未来予知よりも早く動くことができる。


「時偶流・五覚・聴の型【歌聖】」


歌聖とは剣聖などのもととなった言葉と言われており語源は詩聖から来ている。

何かを極めたモノに称えられる称号。


その称号の名に関する術のままに歌声を披露していく。

この歌声は異形たちを元来いるべき場所に返す術。

声の周波数を耳で聞き分け肺のコントロールを横隔膜だけでなく胸筋、背筋、頬筋を用いて微細なコントロールをしつつ、別の声を鼻から出す。

独りでクインテットをやるような技術が必要となるため並列思考を用いてもかなり辛い。


もっと簡単に言えば両手両足、舌ベラで5つのキーボードで全く異なるゲームしながら片方の目をモニターにしてもう片方は勉強を覚えて教科書を進めているようなものだ。


「………時代…移…る…だから………術………変わ…る………でも…過去…教訓………忘れ…な…い……。」

「どんな武術ですかそれは………。」

「……知らな…い………でも…彼…の……おじい…ちゃん…の……術…で……は…な……い…の……は……確…か…。」


では一体誰が教えたのですかとは成らなかった。

詩は勝手に予想して納得してしまった。

彼の中に居る鬼が推したことにすれば辻褄は会うからだ。

知らないことのせいにすれば分かった気になれると人間は出来ているからこそこのことに追及するという選択肢を捨てた。

今は目の前の異形たちが倒れ行くさまを見ているだけだった。

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